「ペテロの葬列」宮部みゆき著
■事件が解決したあとからが本当の始まりだった
昨年放映された小泉孝太郎主演のテレビドラマ「名もなき毒」の原作・杉村三郎シリーズの第3弾(ドラマでは1作目「誰か」が前編、2作目「名もなき毒」が後編)。
杉村三郎は一大グループ企業・今多コンツェルン会長の外腹の娘を妻に持つという微妙な立場にいるものの、生真面目で家族思いの平凡なサラリーマン。その三郎が奇妙な事件に巻き込まれるというのがシリーズの定型だ。
取材で訪れた房総で三郎はバスジャックに遭遇する。犯人は拳銃を持った小柄な老人。運転手と乗客6人を人質にバスに立てこもり、3人の人物を探すよう要求する。老人は弁舌巧みに人質たちを掌握するが、動機は不明のまま事件はあっけなく解決する。しかし、本当の事件はここから始まる。老人は籠城中に人質たちにある提案をしていた。そのことで三郎たちは事件の背後に潜む老人の真の動機を探ることになるが、追っていくうちに彼ら自身「悪」という巨大な渦に巻き込まれていく。
事件は二転三転、最後は三郎も大きな試練に直面し、シリーズの今後の大きな転換をも予見させる。