「軍艦島 廃墟からのメッセージ」坂本道德著、高木弘太郎写真

公開日: 更新日:

 長崎港の南西18キロの沖合に浮かぶ端島は、その威容から軍艦島の名で知られ、昨今の廃墟ブームと相まり、多くの観光客を集め、世界遺産への登録への動きも進んでいる。

 この人工の炭鉱島でかつて暮らしていた人々は、「石炭を掘るという一つの目的を追求する運命共同体」だった。しかし、閉山、全島民退去から40年が経ち、島はすっかり廃墟となってしまった。本書は、島で育った著者が、その廃墟の中に残る往時の島民たちの生活や息遣いを伝えるフォトエッセー。

 島は3交代24時間操業の不夜城で、最盛期には5000人もの人々が暮らしていた。地底で働く夫や父親の無事を願い毎朝家族が手を合わせて祈った仏壇、机の上に無造作に置かれたヘルメットとツルハシ、台所の水切り籠の中に残る家族分の食器、洗濯機やステレオなどの家電、そして襖に貼られた当時のアイドルやハリウッドスターのポスターや切り抜きなど、島民たちが暮らした高層アパートの部屋には、慌ただしく島を去っていった人々の残したさまざまな品が今も残り、静かに朽ち果てていこうとしている。


 部屋の真ん中にぽつんと残された大きな水瓶は、1957(昭和32)年に海底水道が開通するまで、湧き水のない島で水の保管のために使われたものだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異