「蜃気楼『長嶋茂雄』という聖域」織田淳太郎著

公開日: 更新日:

 彼はなぜ、これほど多くの人に愛されるのか。光り輝く善意のスーパースターに、陰の部分はないのか。もしあるとしたら、メディアはなぜ、それを黙殺してきたのか。取材記者として、長嶋を追い続けてきた著者が、「長嶋茂雄という聖域」に踏み込んで、その全体像をつかもうと試みた異色の人物論。

 ある巨人軍OBは、長嶋のことを「底知れぬ空」にたとえたという。天才的なスーパースター像は、国民的人気を背景にメディアがつくり出す虚構によって、蜃気楼のように無限に膨らんだ。称賛あるのみで、スキャンダルはタブー。メディアは長嶋の何を伝えてこなかったのか。著者はあえてそれを探ろうとする。

 美貌と才気を持ちながら、決してメディアに登場しなかった亜希子夫人の真意。偉大な父の背中を追った長男、一茂の苦悩。近しい人でさえ知らない長女の消息。長嶋茂雄の後見人を自称した男の暴かれた本性……。いつも明るくポジティブなミスターの、孤独と悲哀が垣間見えてくる。

 亜希子夫人は、2度目の監督就任に反対した。若いころ外交官志望だった夫人は、現役を離れた夫とともに「自由に、世界に羽ばたく夢」を持っていたという。しかし現実は、「読売巨人軍終身名誉監督」の称号のもと、長嶋は生涯、読売という巨大組織にしばられることになった。脳梗塞の後遺症を抱えながら、今も「長嶋茂雄」であり続けている。

■関連キーワード

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

  2. 2
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  3. 3
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  4. 4
    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

  5. 5
    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

  1. 6
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  3. 8
    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

  4. 9
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 10
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”