特集「日本語と戯れる」編

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「倉本美津留の超国語辞典」倉本美津留編著

「日本人なら日本語を知っていて当たり前」と思いがちだが、けっこうあやふやなまま適当に使っていることも少なくない。「据え置き税率」を「軽減税率」と誰かがすり替えても波風も立たない欺瞞に満ちた日本語に毒されている昨今、日本語は言語としてかなりマズイ立ち位置に置かれているのかもしれない。

 そこで、今回は日本語本来のパワーを再発見できそうなこだわりの本を4冊ご紹介!

 まるで漫才コンビの名前のようにユニークな言い回しである。コンビなのにすぐに立ち位置からばらける「あちら・こちら」、起きたばかりのパジャマ姿と葬式帰りの喪服姿で登場する「着のみ・着のまま」、不幸しかネタにしない「踏んだり・蹴ったり」、無言で登場し無言で退場する「うんとも・すんとも」などなど。

 そんなヘンテコリンで面白さ全開の日本語を新たな切り口で採集・分類し、遊び倒す術を見せてくれる異色の国語辞典がある。「倉本美津留の超国語辞典」(倉本美津留編著 朝日出版社 1680円+税)がそれ。

 漢字表記のない日本語を見つけたら自分なりの適当な漢字を当てる遊びも紹介している。たとえば「しつこい」は、しつこくやることで質が濃くなるという意味で「質濃い」と表し、「いざこざ」は違う席に座ったことから始まるくらいの小競り合いを表す意味で「違座小座」と書く。思っていることと申し上げたいことがドロドロになるのが「思泥申泥(しどろもどろ)」で、窓が多すぎてどれがどれなのかわからなくなる状況を「窓六個しい」となる、という具合に、自由にすると気分爽快だ。

「便がいいのは」交通なのかお通じなのか、「スナック」はお菓子なのか飲み屋なのか、「大丈夫です」はOKなのかダメなのかなど、誤解されても仕方ない玉虫色の日本語の数の多さにも驚かされる。

 あえて日本語の重箱の隅をつつく著者の目のつけどころが何より楽しい。堅苦しいことは抜きにして、童心に帰って思う存分、日本語と戯れることができる飲み会のネタ本としても、オススメだ。




「翻訳問答2創作のヒミツ」 鴻巣友季子編著

 自分の顔を確認するのに鏡が必要なのと同様、日本語の本質に迫るためには外国語という鏡が大いに役に立つ。

 翻訳者は、常時その鏡を扱っていることもあって、常日頃から日本語の特性に極めて敏感だ。そんな翻訳稼業の著者が、これまた日本語のプロである小説家と、それぞれ共通の外国語テキストを日本語に訳して持ち寄ったらどうなるか。

 前作では片岡義男と伝説の翻訳問答を繰り広げた著者が、本書では奥泉光、円城塔、角田光代、水村美苗、星野智幸と5つの対局に挑んだ。取り上げたテキストは、「吾輩は猫である」「竹取物語」「雪女」「嵐が丘」「アラビアンナイト」という誰もが知る名作。

 日本文学の場合、外国語訳からの訳し戻しという手法をとったため、外国語訳テキスト、鴻巣訳、小説家訳、原本の日本文学テキストを比較することができる。慣れ親しんだ日本文学も、翻訳という鏡に何度もうつしかえされることで、またもうひとつの新たな日本語の世界が立ち上がってくる。(左右社 1700円+税)



「大和言葉つかいかた図鑑」海野凪子・文ニシワキタダシ・絵

 相手に冷たくそっけない態度をとることを「袖にする」、知っているのに知らないふりを貫く「しらを切る」、相手の話や関心がある方に向くように誘いかける「水を向ける」など、最近あまり使われなくなってしまった大和言葉。

 日常生活に根差していた大和言葉は、中国から入ってきた漢語やその他の海外から輸入されたカタカナ語とは違った日本人の感性に合うやわらかな響きを持っている。そんな大和言葉に焦点をあてて、身近な例文と共にその由来を解説しているのがこの本。

 たとえば、「そりが合わない」とは、刀の刀身と、さやの反りが合わないと刀がうまく収められないことからできた言葉。刀文化があった日本だったからこそ生まれた言葉のひとつだといえる。

 いつのまにか忘れられてしまった大和言葉の背景を、「日本人の知らない日本語」で一躍有名人となった日本語教師・凪子先生がやさしい言葉で解説。(誠文堂新光社 1200円+税)




「悩ましい国語辞典」神永曉著

 実際に書かれた文例をもとに日本語の歴史を記述する日本最大の辞書「日本国語大辞典」の編集に長年かかわってきた著者による、日本語の変化にまつわるエッセー集。

 日本語の変化の過程を辞書編集者として観察していると、そこには正解のない言葉の揺れがあり、それには相応の理由や歴史があることが見えてくるのだという。

 本書は、本来の意味とは異なる意味や古い意味で使われている言葉や誤った意味で使われている「揺れる意味・誤用」の言葉、一定の地域や年齢層や口語のみで使われている言葉や方言由来で一般化した「方言・俗語」の言葉、読み間違いが多いものや複数の読み方が使用されている「揺れる読み方」の言葉、古語を語源とするなど古くから使われてきた「大和ことば・伝統的表現」の言葉の4ジャンルの記事を掲載。

 巻末には、辞書編集者の仕事についてのエッセーも収録されている。(時事通信社 1600円+税)



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