現代人の悩みに応える新仏教入門書特集

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「近代仏教スタディーズ」大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎編

 嘘をつく、ごまかす、タカる、ネコババする、人のせいにする。人間はなんとあさましいことか……などと自民党の政治家に学んでいる場合ではない。己のあさましさもやましさも含めて、悩み疲れたときにおすすめの最新神仏教入門書を紹介しよう。

 まずご紹介するのは仏の教えを説いたものではなく、日本における仏教界の歴史をひもといた「近代仏教スタディーズ」(大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎編、法藏館 2300円+税)だ。
 明治維新から太平洋戦争終結までの間に激変した日本で、仏教が生き残るために、いかに近代化に努めてきたかの歴史をたどる異色の仏教史である。その特徴を3つにまとめている。

 まずは、大学制度の創設と学問化だ。明治の初めに「廃仏毀釈」(仏教を排斥する)の思想が高まり、危機感を覚えた各仏教教団は果敢に欧州視察を実施した。留学で研鑚を積んだ知識人仏教徒は、仏教を学問として学ぶ教育の場を次々に設立。現在でいえば、東京大学のほか、龍谷、大谷、東洋、立正、駒沢などの大学だ。

 2つ目はメディア戦略。全国各地の仏教結社が定期刊行物、いわゆる雑誌を発行して普及に努めた。明治期は仏教系出版社も活気を帯びたという。たとえば鴻盟社や哲学院など東京の出版社は量産&ヒットを狙う戦略に対し、護法館、文昌堂など京都の出版社は専門特化で確実に売れる戦略を取った。この戦略の相違は、今に通じるものがある。

 また、ラジオ放送による説教もブームとなり、全国にあまねく仏教的教養を広めることに成功したという。

 3つ目は早い段階での国際化だ。今でこそビジネスは盛んにグローバル化が叫ばれているが、仏教のグローバル化はかなり早かった。明治21年には有志たちが英語仏教誌を創刊し、海外宣教会という伝道団体を結成。世界中の仏教徒をつなぐネットワークをつくった。また明治26年にシカゴで開催された万国宗教会議では、臨済宗の平井金三の英語演説が大絶賛を浴び、日本の近代仏教は世界的な関心を集めることになったのだ。

 学問化、メディア活用、グローバル化。まさに現代ビジネスの要ともいえる動きを、近代仏教はうまく取り入れてきた。もちろん、度重なる戦争という激動期、政治的イデオロギーやナショナリズムと結びついた時代もあった。それでも仏教が人々の心に寄り添い、営みに根ざしてきたことがよく分かる。

「運がよくなる仏教の教え」萩本欽一、千葉公慈著

 あの欽ちゃんが73歳で大学生に。しかも仏教学部。難解な仏教用語に四苦八苦している欽ちゃんが、曹洞宗の住職に素朴な疑問をぶつける個人レッスン問答集。

 ブッダの教えから仏教用語、宗派の違いや葬儀の在り方まで、いまさら人に聞けない基礎知識でも、分からないと素直に聞き出す欽ちゃん。迎える千葉住職も、魅力的なエピソードとともに仏教の神髄を教えてくれる。ウイットに富んだふたりが繰り広げる対談形式は、読みやすくて分かりやすい。説教くさくなりがちな説話も、欽ちゃん目線でひもとくから面白い。もちろん悩む人の心に寄り添う、仏教の慈悲深さやありがたみも味わえる。人間が生まれながらにもつ三毒(貪り・怒り・うぬぼれ)から解放されたい人は、この本から始めてみよう。(集英社 1400円+税)

「悩みがスッと消えるお坊さんの言葉」村越英裕著

 禅宗の僧侶である著者が、現代社会の老若男女のあらゆる悩みごとに対して回答してくれる、お悩み問答集。

 悩みは1~2行、余計な周辺情報はなく、簡潔な問いで表現。つい怒ってしまう、嘘をついてしまう、浮気をしてしまう、子供の将来が心配、夫が子育てに非協力的、親の介護が負担、仮面夫婦……だからこそ読み手はわが身と重ねて読み込んでしまうのだ。どうしようもない問いに対しても、気づきを与えてくれる珠玉の回答が並ぶ。仏教の教えや名僧のエピソードを巧みに交え、読むだけで心の負担を軽減させる効能がある。

 特に秀逸なのは、いま流行の不倫に対する戒めや、怒りや嫉妬を静める対処法だ。悩みがスッと消えるかどうかは読んで試してほしい。(宝島社 1200円+税)

「お悩み別 この神さまに相談しよう」吉田さらさ著

 日本の神様のプロフィルと特徴を生かして、お悩み相談を展開。神頼みしたいほど困った女性たちに、おのおのの神様が叱咤激励を送るという不思議な体裁の本だ。

 著者は「寺と神社の旅研究家」で、古事記や日本書紀に登場する神様から民間信仰の神様まで精通。

 例えば、容姿に悩む女性には、不美人で有名なイワナガヒメが「ブスは磨くほど光るものです」と諭す。略奪婚をもくろむ女性には、正妻の座を奪い取ったスセリビメが「ご自分もいつか同じ目に遭うというご覚悟を」とくぎを刺す。

 シュールな展開を楽しめるだけでなく、古事記や日本書紀にあるエピソードを改めて学べるメリットも。また、全国の神社情報も掲載。神様別・御利益別のガイド本としても使える。(飛鳥新社 1389円+税)

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