「安藤忠雄 野獣の肖像」古山正雄著

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 建築の門外漢でも、安藤忠雄が世界的に活躍する凄い建築家であることは知っている。一体、どこがどう凄いのか。安藤の建築家としての原点とその軌跡を、近・現代の建築史の流れの中でとらえた人物評伝。著者は京都工芸繊維大学学長で、都市論、建築論が専門。安藤とは40年来の親交があり、間近で接した人物像と作品論が相まって、読み応えがある。

 安藤の経歴はきわめてユニークだ。大阪の下町の長屋で祖母に育てられた。長屋の向かいに木工所があり、小学生のころから木型職人たちと一緒に過ごした。建築家の多くは大学で建築を学ぶが、安藤は建築教育を受ける代わりに、早くから手でものを作る根本を体感し、形態認知能力を身につけた。長屋の劣悪な住環境への怒りは、自分の力で住宅を変えてやろうという思いにつながっていく。

 17歳でプロボクサーになるが、この道は断念。24歳のとき、シベリア鉄道で独りヨーロッパへ向かった。諸国放浪の途中、アテネでパルテノン神殿の前に立つが、この建築のどこが凄いのかわからない。数日通い詰め、「この場所を支配しているのは数学だ」と感得する。人から知識を与えられるのではなく、自分で掴み取る。安藤の学びは常に身体的だ。こうして「強い体幹」と「手に宿る知性」を併せ持つ建築家、安藤忠雄が誕生する。

 著者は冒頭に書いている。

「安藤さんは、若い頃から自分は野獣だと言っている。彼は建築家である前に、大阪の街をジャングルのように駆け巡る野生の動物なのだ。素早い動きとクレバーな判断は、まさしく都会に生きる獣だ」

 70歳を越えた野獣は、衰えを見せず、ブレることなく闘い続けている。(新潮社 1500円+税)

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