壮絶ながん闘病を経験した大橋巨泉氏 「賭けに勝った」

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日本のマスコミは機能不全

「僕は、ポピュリズムの権化のような安倍首相をまったく信用しない。アベノミクスとかいって、やれ3本の矢だ、やれ成長戦略だとあおっているけど、動機が不純なんだよ。彼が心から景気回復を目指そうとしているなら反対しません。だけど彼にとって、経済はムードをあおる手段に過ぎず、本当にやりたいのは憲法改正であり、日本を『戦争ができる国』に変えることでしょう。実際、ニコニコして、口当たりの良いフレーズを並べておきながら、国民の過半数が反対した特定秘密保護法を強引に通してしまった。法衣の下に鎧(よろい)を隠しているような男の言動にだまされてはいけません」

■「すっこんでろ、このジジイ」と言われるくらいが健全

 アベノミクスを正面から批判しないマスコミも同罪だという。

「日銀に大量に札を刷らせた人為的な円安によって、日本の生活必需品の値段は上がり、悪い面が次々と出始めている。それなのに、日本のマスコミは『春闘で給料上がった』とかチョーチン記事を書いてヨイショを続けているから、本当に愚かだと思う。企業をドーカツして賃上げさせる統制経済みたいなまねを批判するのが、メディアの仕事じゃないのか? 日本のマスコミは機能不全に陥っていると思う」

 今の日本を覆う「空気」も危ないという。

「こう言うと『巨泉は左だから』と片付けようとする人がいるけど、競馬やマージャンをテレビで推奨した男のどこが左だっていうんだよ。日本の軸が大きく右にブレたから、僕が左に見えるだけ。それは違う、おかしい、というマトモな批判さえ許さない戦前みたいな“空気”を今の日本に感じる。大体、病気で出ない声を振り絞って、僕が『安倍は危ない』と言わなきゃならないこの世の中がどうかしている。本当だったら、『おい巨泉、おまえの言っていることなんざ分かってるよ。すっこんでろ、このジジイ』と言われるくらいの社会が健全なんだよ」

 そんな巨泉氏が期待するのは細川護煕(76)、小泉純一郎(72)両元首相の動向だという。東京都知事選で敗北しながらも政府の原発推進の動きに危機感を募らせ、今月7日、一般社団法人「自然エネルギー推進会議」を設立。再びタッグを組んで「脱原発」に向けて動き始めた。

「僕は小泉君が米国の尻馬に乗ってグローバル経済に突き進むのを阻止しようとして、13年前、民主党から出馬したわけだけど、今の小泉君たちが掲げる脱原発の思いは本物だと思う。でなければ、功成り名を遂げた2人が、老体にムチ打ってあの極寒の中、都知事選の街頭に立てるはずないもん。大体、日本の電気代が世界中でダントツに高いのは原発のランニングコストが高いからだし、再稼働が極めて危険なのも事実でしょう。現実主義、実存主義の立場からも、僕は彼らを応援したい」

 がんは完治に向かっている。これからの目標はあるのか。

「とりあえず快気祝いとボクの80回目の誕生日、傘寿の祝いを兼ねたパーティーを今月やるの。あとは週1ペースでゴルフができるくらいまで体力を回復させたい。先日、『それでも僕は前を向く』という本を集英社から出したばかりだけど、安倍政権の右傾化に警鐘乱打するような原稿をドンドン書き続けるよ」

 このエネルギーには頭が下がる。

(聞き手=本紙・岩瀬耕太郎)

▽おおはし・きょせん 1934年、東京生まれ。早稲田大学政経学部新聞学科中退。放送作家などを経て、「11PM」「クイズダービー」などの司会者として活躍。01年に民主党から参院選に出馬、当選するが、わずか6カ月で辞職した。

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