野地秩嘉
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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第13回>迫真の演技だったビートたけしの“シャブ中”

公開日: 更新日:

【夜叉(1985年・東宝)】

 高倉健扮する主人公はかつて大阪のミナミで「人斬り夜叉」と呼ばれたやくざ。堅気になって、若狭湾に面した小さな港町で漁師として働いていた。そこへミナミから水商売の女、蛍子(田中裕子)が流れてきて、居酒屋を開く。しばらくは平和なままだったのだが、女のヒモ(ビートたけし)が現れ、漁師たちに覚醒剤を売るようになってから港町にさざ波が立つ。最後は蛍子、ヒモのために主人公はミナミに乗り込み、刃を振るう。

 ビートたけし、田中裕子の芝居は迫真という表現がぴったりだ。特に、覚醒剤中毒になったたけしが包丁を持って田中裕子を追い回すシーンは、ニュースフィルムを見ているような錯覚に陥る。役者でなく、本物のシャブ中を連れてきて、出演させているのではないかと思ってしまう。

 その他にも大滝秀治、田中邦衛、小林稔侍、いしだあゆみと高倉健映画の常連陣が脇に回る。ぜいたくなキャスティングの娯楽映画だ。いい映画なのだけれど、高倉健が背中に夜叉の入れ墨を背負っているために、テレビでは恐らく放映されないだろう。

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