映画「ソロモンの偽証」成島出監督特別インタビュー(中)
「“学芸会裁判”にならないためにも大人の俳優は“しっかり”とした人たちを選んだ」と話すように、主役は中学生でも脇を固める役者陣は実力派揃いだ。
(藤野涼子の母親役を演じた)夏川(結衣)は安定感がありますね。夏川のデビュー作(柄本明監督作品「空がこんなに青いわけがない」)で助監督をやったときは、今回の涼子のようによく叩かれてしょっちゅう泣いてましたけど(笑い)。大人たちはテストの一発目から手を抜かずにやるので、子供たちの良いお手本になったと思います。
今回、子供たちには「演じろ」と言わず、「なりきれ」と言いました。涼子は「涼子を生きる」しか方法がなく、現場でいきなりキャラを作ることはできないから、役が決まったらみんな本名で呼ぶのを一切やめて役名で呼ばせ、「おうちに帰っても役名で呼んでもらいなさい」と言ったり、仲良しという設定の松子(富田望生)と樹理(石井杏奈)には「ずっと手を握ってろ」と言ったり。まるで動物を扱うみたいな感覚でしたね。
そんなことをやっていたから、今までの映画とは比べものにならないくらい時間がかかりました。配役を決めずに2カ月間みっちり合同ワークショップをして可能性を探ったし、子供たちの春休み期間を利用して、長いエチュード(台本を使わないアドリブ劇)をやったり一日中、厳しい基礎トレーニングをした。ここで、テレビや映画をやってきている子は現場の流れが分かるので「まだ配役が決まらないの?」という疑問や不満も出てくるけど、今回はほとんどが“リアル中学生”。演技経験ゼロの「真っ白」な状態だから、言ったことを疑うことなく染み込ませていくんですよ。子役からやってきた子が最後までオーディションで残らなかったのはそういう理由かもしれない。色が付いたものを脱色して白に戻してからやるのって、ものすごい時間がかかる。作中に「14歳だからああいう裁判ができたんだと思います」というセリフがあるように、高校生の映画を同じ方法論でやってもうまくはいかなかったと思う。