鈴井貴之ドラマ「不便な便利屋」は東京の作り手への挑戦状か
【連載コラム 「TV見るべきものは!!」】
北海道を舞台にしたドラマといえば、いまだに倉本聰脚本「北の国から」が挙がる。しかし、今後はこのドラマが加わるかもしれない。「水曜どうでしょう」で知られる鈴井貴之が脚本・監督を務める、「不便な便利屋」(テレビ東京系)だ。
主人公は脚本家の竹山純(岡田将生)。演出家とぶつかり、東京を離れて北海道に来た。バスで富良野へ向かうが、猛吹雪で立ち往生。名も知らぬ町で途中下車する。ちなみに、純がバスの車中で読んでいたのは倉本聰のエッセー集「さらば、テレビジョン」だ。
純は飛び込んだ居酒屋で、梅本聡一(遠藤憲一)の生き別れた息子だと勘違いされ大歓迎を受ける。酔って携帯と財布をなくし、便利屋である聡一の世話になるが、なかなか町を出て行けない……というのが先週の初回だ。冬の北海道で雪のトラブルは日常だ。道路封鎖や町の孤立も珍しくない。
北海道出身・在住の鈴井は、ローカルならではの暮らしと人情をユーモア込めて描写。登場人物たちの不思議なキャラクターと相まって、独自のドラマ空間を生んでいる。
主人公の純という名前や富良野は「北の国から」を、また便利屋は瑛太と松田龍平の「まほろ駅前番外地」を想起させるが、単なるオマージュではない。むしろ北海道にこだわり続ける鈴井の、“東京の作り手たち”に対する挑戦状とみた。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)