小池百合子の学歴詐称疑惑 石井妙子氏は取材と検証で確信

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 今月18日告示の東京都知事選で再選を狙う小池百合子都知事。だが、首都のトップとして本当にふさわしい人物なのだろうか。市場移転問題や五輪会場の経費削減では、混乱と迷走を繰り返した。そして今、問題視されているのがエジプトの名門カイロ大学卒業という学歴詐称疑惑だ。約3年半にわたる取材で、先月29日に「女帝 小池百合子」(文藝春秋)を上梓した作家・石井妙子氏に、小池百合子とは何者なのかを語ってもらった。

  ◇   ◇   ◇

 ――執筆にあたり、石井さんは多くの資料に目を通し、100人以上に取材してきました。調査開始直後の小池さんの“第一印象”はどうでしたか。

 私はいつも、先入観を持たずに対象の人物を調べるのですが、資料を読み始めて早い段階で、何かがおかしいと気づきました。彼女の著書を読むだけでも非常に矛盾が多かった。彼女の自分語りをそのままうのみにするのは問題があると思ったのです。当時のことを知る人を訪ねたり、資料を精査すると不信感はさらに深まっていきました。

 ――とりわけ違和感が大きかったのが、1976年の「カイロ大卒」との学歴ですね。

 彼女の著書「振り袖、ピラミッドを登る」(講談社)を読みましたが、その一冊の中でさえ矛盾があった。まず、入学1年目の72年は授業が難しすぎて留年。でも、入学から卒業まで4年間だったとの記述もある。留年したなら、学生生活は5年間のはずです。小池さんと留学時代が重なっていた人に直接聞いても、卒業したことを疑っている人が多かった。疑念が深まりましたが、当初は決定的な証言や証拠を得られませんでした。

 ――そんな中、かつて小池さんとカイロ市内で同居していた女性から情報提供があった。それを基に、文藝春秋18年7月号で「虚飾の履歴書」を書くに至ったのですね。

 文藝春秋に書くまでに月刊誌に小池さん関連の記事を3本書いてきました。それを読んだ同居女性が私宛てに手紙をくれたのです。手紙には「あなたは小池さんのうそに気づいている」「記事を読んで確信しました」と書かれ、「あなたに打ち明けたい話がある」とあった。その後、実際に話を聞き、検証を経て、小池さんが学歴を詐称していると確信しました。ウソにウソを重ねて物語を作っていると思いました。

 ――本の中では、76年7月に落第し、卒業がかなわなくなった小池さんと同居女性の衝撃的なやりとりが描かれています。落ち込む小池さんは一時、日本に帰国。ところが、同年11月にカイロに戻ってきた際に手にしていた新聞に「カイロ大学を卒業した小池百合子さん」と書かれていた。これに驚いた同居女性が「そういうことにしちゃったの?」と尋ねると、小池さんは「うん」と一言。要するに、小池さんは新聞社の取材に虚偽の説明をしたということになります。カイロ大卒という物語を作り、世の中を渡っていったわけですね。

 自分を世に売り出すためには、皆が飛びついてくれるような魅力的な物語が必要。小池さんはそれをどんどん作ってしまう。事実でないことを事実のように語って売り込んでいったのです。相手を面白がらせて自分の注目度を高めることを繰り返し、その手法を学んでしまった。うまくいくものだから、高をくくってしまったのではないでしょうか。

 ――よく、そんなにうまくいきますね。

 それは、マスコミを味方につけたことが大きいと思います。カイロ大卒というのも、まず新聞に書いてもらうわけです。記者はエジプトやカイロ大、アラビア語の知識がありませんから、小池さんに言われたままに書いてしまう。その後、雑誌に取り上げられ、次にテレビに売り込むという流れでしょう。

「オジサン社会」で女の特権を利用

 ――マスコミに取り上げてもらうのは、そんなに簡単なことではないと思いますが、小池さんは売り込むことができたと。

 小池さんが若い頃、新聞記者たちは若い女性に甘いところがあったと思います。当時の記事を見ていると、記者の女性に対する甘さが紙面ににじみ出ている。これがもし、いかつい男性がカイロ大を出たというだけでは、大きな記事にはならなかったでしょう。男の記者たちが争うように小池さんを売り出してあげたというのが、当時の各紙を見るとよく分かります。中東の大学に留学し、苦労して卒業した女の子を売り出してあげたいというマスコミのオジサンたちの意向が感じられます。

 ――それで「小池さんは若くてアラビア語ペラペラの才媛」という事実が出来上がってしまうわけですね。

 年配の男の人たちには、まさかこんなかわいい女の子がそんな大それたウソをつくわけない、という先入観があったように思います。

 ――「女性」に対する不可解な先入観ですね。

 小池さんもそこを利用してきたのでしょう。前回の知事選では、小池さんに「女だから正義感が強いはず」「女だからお金にクリーンだ」といったイメージが植え付けられていたように思います。取材する中でも、「女の人が酷いことするわけない」とか「女の人はウソをつかない」といった話はよく聞きました。小池さんは「女だ」ということを利用してきた。男社会であるがゆえに生まれる女性の特権を使い、流れに乗ってきたという印象です。もっともその特権も差別のひとつの表れなのですが。

■「上昇志向」の原因は壮絶な前半生

 ――テレビ業界や政界を渡り歩くために、組織のトップに近づくことも忘れなかった。

 日本の「タテ社会」の仕組みもよく分かっている。組織の下の方を相手にしないで、上から攻めちゃうんですね。上とつながってしまえば、下は制することができる。実際に小池さんは今も自民党都連や都議は相手にせず、本部の実力者、二階幹事長を押さえています。そうすれば、自然と都連も都議も従わせることができる。効率で考えたら、ピラミッドの下の方は人数が多い。そこを相手にすると手間がかかるけど、ピラミッドの頂上の一人だけ落とせば、下の数十人、数百人は手にできるわけです。

 ――したたかですね。

 加えて言えば、小池さんは何かをアピールする時、横文字を多用したり、流暢な英語を披露することがある。英語をしゃべるところを見せると、大半の日本人が称賛する傾向がありますよね。これは、日本人全体の英語、西洋コンプレックスからきている。小池さんは男性中心、タテ社会の論理、西洋コンプレックスといった日本社会の歪みを巧みに突いている感じがします。

 ――横文字といえばコロナ対策で「ロックダウン(都市封鎖)」という言葉を使い、世間を驚かせました。

 コロナ対策は東京五輪開催が頭の中にあったからか、後手後手に回った印象です。その初動の遅れを、ロックダウンといったインパクトの強い言葉を使って、吹き飛ばそうとしたのではないでしょうか。また、対策そのものが小池さん自身の宣伝に使われている感もありますね。

 ――この先の政治家人生まで見据えてのことかもしれませんね。

 小池さんの野心は尽きることがないんだろうと思いますが、政治家としてやりたいことがあるようには見えない。上り詰めていくことそのものが彼女の人生で、上り詰めた先で何かをやりたいという目的はないのではないでしょうか。今も都知事としてのビジョンは見えてきません。

 ――何が小池さんをそうさせたのでしょう。

 上り詰めていくのは、下に落ちたくないという恐怖心からではないかと思います。彼女は10代の頃まで非常に苦労が多かった。家が経済的に安定していないとか、親が多額の借金をつくって借金取りが取り立てにくるという状況で生きてきたわけです。生まれつき顔にアザがあったこともあり、物心ついた時から「普通の人生は送れない」と言われることもあった。幼い頃から気を張っていなければならない環境で生き、心が休まることもなかったのかもしれません。だから上り詰めて自分を強く見せないといけなかった。強いと思われれば、誰も襲いかかってこない。不安感の強さが彼女をつくってきたのではないでしょうか。

(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)

▽いしい・たえこ 1969年、神奈川県茅ケ崎市生まれ。白百合女子大学卒。2006年、約5年間にわたる取材に基づき「おそめ 伝説の銀座マダムの数奇にして華麗な半生」(洋泉社)を刊行。13年に「日本の血脈」(文春文庫)、16年には「原節子の真実」(新潮社)で第15回新潮ドキュメント賞を受賞した。

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