破天荒さ消えた海老蔵 十八番の「助六」から迫力も消えた

公開日: 更新日:

 市川海老蔵の「助六」が13年6月以来、4年ぶりに歌舞伎座に帰って来た。海老蔵が歌舞伎座に出るのも昨年7月以来だ。相手役の揚巻は、昨年襲名した中村雀右衛門が初役でつとめる。

 大概の劇評家は海老蔵が古典を演じると批判するのだが、それでも助六だけは認めていた。家の芸である歌舞伎十八番の中でも、あまりにも海老蔵に適役で、まさに助六を演じるために生まれてきたかのような圧倒的な華やかさが、芸が未熟だの発声がなってないだのという不満を跳ね飛ばすからだ。

 もともと「助六」は演劇としてドラマがあるものではない。脇役を含めた出演者全員の、演技力というより存在感が全てという演目だ。助六には、日本一の色男としての華やかさ、ケンカばかりしている不良少年としての荒っぽさ、そしてケンカをする理由を隠し持つ暗い影と、人に好かれるユーモアが求められ、海老蔵の助六には、そうしたものがすべてあった。

 まさに舞台にいるだけで、「助六を演じている」のではなく、「助六を生きている」ようだった。それは演劇のあるべき姿とは違っているのかもしれないが、それこそが近代演劇とは異なる次元で成立する、「傾奇者」として始まった歌舞伎の魅力だと思わせる。スター主義の演劇でなければ成り立たないものが、海老蔵の助六にはある。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗