彼の本妻になりたい! アラフォー「内縁の妻」が略奪愛を目論むまで #1(蒼井凜花)
【アラフォー内縁妻 腹黒“略奪愛”2カ年計画】
「内縁関係」という言葉を聞いて久しい。「内縁関係」とは、夫婦としての実態はあるものの、法的な婚姻が成立していない状態をしめす。
単なる「不倫」と違うのは、将来的に婚姻の意志があるかどうかも問われる。近年、内縁関係のカップルは200~300万人ともいわれている(2022年・内閣府男女共同参画白書調べ)。
今回取材に応じてくれたのは、「内縁の妻」歴2年の千鶴さん(仮名・35歳イベント会社/独身)。セミロングヘアが似合う、細身で清楚系の女性だ。
パートナーの男性とは同居しているものの、彼の本妻が離婚に応じてくれず、内縁関係を続けている。そんな千鶴さんの狙いは、「略奪婚」だ。
内縁の妻から本妻へのステージアップを目論む彼女に迫ってみた。
異業種交流会で運命の出会い
――まずは、相手男性との出会いからお聞かせください。
「異業種交流会です。内縁の夫である正樹さん(仮名・39歳会社経営/妻子アリ)と出会ったのは2年半前。私が化粧品会社の広報をやっていた時でした。ダークスーツが似合うスポーツマンタイプの素敵な男性がいるな…とさりげなく目で追っていたら、彼と目が合い、慌てて目をそらしたんです。
すると、彼のほうから私に歩み寄ってくれました。
――よろしければ、お名刺交換をさせていただけませんか?
丁寧な物言いと笑顔に、私はドキドキしながら、名刺を差し出したんです。
――化粧品会社にお勤めですか。どうりでおキレイなはずだ。
――いえ…そんな…ありがとうございます。
経営者の彼に惹かれていく
私は恐縮しました。当時、私は33歳。東北の実家の両親には、『30歳を超えて独身なんて、恥ずかしい』と結婚をせっつかれていた身です。
男性に容姿を褒められた嬉しさはありましたが、いまだに独身という事実が私のコンプレックスだったんです。正樹さんの言葉に二の句を継げずにいると、
――僕は不動産や金融、イベント業などを手がけていますが、条件が合えばどんなことでもビジネスを提案するいわゆる『何でも屋』なんです。
――常にビジネス視点で考えるなんて、すごいですね。
彼が複数の会社を手がける経営者であることを知りました。私自身、結婚に憧れる一方で、『いつかは美容関係で起業したい』という夢もあったので、経営や起業についていろいろ質問しているうちに、彼のほうから『よかったら、この後、2人だけで話しませんか?』と誘ってくれたんです。
場所を変えて西麻布の会員制バーで飲んでいるうちに、ますます彼に惹かれていったというのが正直な気持ちです」
思いは歯止めがきかないほど強まって
――素敵な出会いですね。続けてください。
「正樹さんは北陸の漁師町の出身で、家庭は貧しかったようです。地元の商業高校を卒業し、上京。不動産会社の営業マンになったそうですが、『とにかく金を稼ぎたい』一心で粘り強く営業をしていたところ、3年でトップ営業マンになり、その後は独立。不動産時代の人脈で、金融業とイベント関係の仕事も始め、現在に至ったそうです。
私にはない反骨精神や野心、そして夢を実現する行動力や人脈作り、決断力の速さに驚かされ、同時に深い尊敬の念を抱きました。
その後、プライベートで会うようになったのですが、のめり込んではいけないと思うほどに、彼への思いは歯止めがきかないほど強まっていくばかりです。というのは、彼は結婚しており、幼い息子さんもいたので…。
全く違う世界に導いてくれた
既婚者という背景もあり、彼には『大人の余裕』が感じられました。それは経済的余裕に限ったことではありません。心の余裕というか、何事にも動じない強さ、この人と一緒なら安心できるという心強さです。
大学を出ていなくても地頭がいいうえ意思決定が早く、問題解決能力が高いことがすぐに分かりました。
たとえばデート中、私のスマホに不具合が生じた際も、イヤな顔ひとつせず、
――千鶴さんと同じ不具合で困っている人がいると思うから、ググってみよう。
と、すぐに自分のスマホでGoogle検索し、解決に導いてくれたり、私が仕事に行き詰まっていることを告げると、
――意思決定には『6つの帽子思考法』があるよ。
と心理学に基づいた解決法を教えてくれたり…。今までとは全く違う世界に導いてくれたのが彼だったんです。
スマートすぎる気遣い
デートする店も『お食事では何が好きですか?』と聞くより先に、『アレルギーや嫌いな食材はありますか?』などと聞いてくれ、私が『アレルギーや好き嫌いはありません。ヘルシーな焼き鳥が好きです』と言うと、『味が抜群においしいガード下の焼き鳥店と、味は普通においしくて、夜景がきれいな焼き鳥店ならどちらに行きたい?』などと気遣ってくれます。
グルメひとつとってもスマホにリストアップしている。帰りのタクシーもスマホアプリで迅速に呼んでくれて、時間を決して無駄にしない。何よりも、彼と話していると楽しくて、時間が過ぎるのがあっという間。
ニューハーフのお店にも
そうそう、おかまバーやニューハーフ等の夜のお店に連れて行ってくれたのも彼です。
――化粧品業界なんだから、一度、ニューハーフのショーを見ておくのも勉強だよ。
そう言って、彼は華麗なショータイムがあるニューハーフのお店に連れて行ってくれたんです。私が化粧品会社の広報をしていることを告げると、ニューハーフの美女たちは、
――ここのブランドのラメ入りアイシャドー、発色がいいから好きー!
――私はラメ入りリップグロスのファンよ。照明によって、オーロラみたいに輝くの。手放せないわ!
などと大反響で、後日、試供品を大量に送ると、インスタやTikTokでメイク動画をアップしてくれたんです。
そのおかげで、売り上げは急増。デートのはずが、予想外に売り上げアップにつながり、きっかけをくれた彼に心から感謝したものです。
日ごとに増す苦しさ
(私、正樹さんが好き…)
別れ際、タクシーの中から手を振る私に、彼も笑顔で手を振って見送ってくれましたが、日を追うごとに苦しさが増していって…。
(今、私を笑顔で見送ってくれる彼も、自宅に帰って奥さんや息子さんと幸せな時間を過ごすんだろうな…)
出会った当初は、まさかここまで自分が彼にハマるとは思いませんでした。でも、彼とデートするたび、
(離れるのがツラい…彼ともっと一緒にいたい)
男女の関係はありませんが、私はいつしか彼を家族から奪い取ることを目論見始めたんです。絶対彼と結婚したいと…」
彼の本心が聞きたい
――おつらいですね…。話せる範囲でその後をお聞かせください。
「はい…まずは彼の気持ちを聞きたいと思いました。楽しくデートしてくれるけれど、本当のところはどう思っているのか、傷ついてもいいから知りたかった。それを聞きました。
――いつも素敵なお店に連れて行ってくれて、仕事の悩みの相談に乗ってくれてありがとう。
その日は、渋谷にオープンしたヴィーガンレストランでの食事デートでした。
――とんでもない。千鶴さんのおかげで、僕も毎日にハリが出るよ。
その頃には敬語なしで話せる仲になっていました。
彼の私生活が明らかに
――あの…休日や夜遅くまでのデートで、ご家族に迷惑をかけていない?
――ああ、大丈夫。
――大丈夫って…どのような意味で?
――これを言うかどうか迷ったんだけれど、妻とは家庭内別居というか、仮面夫婦なんだ。
――家庭内別居?
――ああ、息子は可愛いけれど…妻とは必要なこと以外は話さないな。僕の書斎にはベッドもあるから、毎晩、ひとりで寝てるよ。
ここまで聞いて、私は彼の話を素早く整理したんです。
万が一の可能性を信じて
(奥さまとは家庭内別居で、会話は必要最低限。息子さんは可愛いけれど、寝る時はひとり…)
私は万が一の可能性を信じて、思い切って話を切り出しました。
――奥さんとはずっと結婚生活を続ける予定?
――いや、それは厳しいな。妻の悪口は言いたくないんだけど、妻は気が強くて、怒るとヒステリックになってね…。息子の前で夫婦ゲンカは避けているけど、正直、幸せな未来は描けないと思っている。離婚も視野に入れているんだ。
――もし……もしよ、正樹さんが離婚できたら、私を再婚相手の候補にしてもらえる?
一瞬の間がありました。
(やっぱり早急すぎた? 言わなきゃよかった?)
思わず唇を噛みしめた時、
――その言葉、僕から言おうと思っていた。
――えっ?
――千鶴さんと出会って、なんて素直で穏やかな女性だと思ったんだ。仕事も頑張っているし、いつも優しい笑顔で癒してくれる…ずっと一緒にいたいと思っていた。
――嬉しい…ありがとう。フラれることを覚悟していたから…。
切り出されたひとつの「お願い」
私は嬉しさと安堵で、思わず涙ぐんでいました。
――ただ、ひとつだけお願いがあるんだ。息子は4歳で、小学校はエスカレーター式の私立を狙っている。親として子供には最善のことをしてあげたいからね。妻とは必ず離婚するから、息子の小学校受験が終わるまでの2年間、待っててくれないだろうか。
――…2年。
――ああ、毎年、秋に受験があって両親の面接もある。合否の発表は11月。翌年4月に入学する間に離婚を成立させて妻の旧姓に戻すという計画を立ててるんだ。
気が遠くなりました。親には結婚をせっつかれているのに、早くて結婚は2年後。しかも、現段階では男女の関係ではないけれど、いずれ不倫関係になるでしょう。
その後、スムーズに結婚できる可能性は何%だろう…。知人の中には、不倫相手の『女房が離婚に応じるよう、説得するから』との言葉を信じて、すでに5年が経過しても不倫状態にいる者もいます。
見せてくれた誠意
私が返答に詰まっていると、
――千鶴さん、こうしないか。僕の誠意を理解してもらうため、君との新居になるマンションを用意するよ。そして、いつでも会えるよう、僕の経営する会社のひとつ、イベント会社の社員として働いてほしい。化粧品会社は辞めてもらうことになるけれど、近くにいることで、僕の気持ちが嘘ではないことを理解してほしいんだ。
しばらく沈黙した後、
――あ…ありがとう…信じてるから。
私は承諾したんです。2年も待つことを考えると不安はぬぐえませんが、彼の言葉を信じたかった。こうして『内縁関係』から『略奪婚』に向けてのカウントダウンが始まったんです」
次回に続く。
(蒼井凜花/作家・コラムニスト)