「エビデンス?ねーよそんなもん」

公開日: 更新日:

「仕方ない帝国」高橋純子著/河出書房新社

 何年前のことになるのか、新聞労連に呼ばれて記者たちに話をしたことがある。

 いささか挑発的に、「新聞記者は上品な仕事ではない。その起こりから言っても、ユスリ、タカリ、強盗の類いなのだ」と扇動した。

 そして、「たとえ取材相手からごちそうになっても書くべきことは書け、そうでなければ、たとえば5万円分接待されて書かなかったら“5万円の人間”になってしまうではないか」と続けた。「食っても書け」ということである。さすがに会場は静かになってしまったが、帰り際、若い女性の記者が寄って来て「サタカさん、私、立派な強盗になります」と言った。

 ああ、話が通じたと思ってうれしかったが、この本の著者は、あの時の女性記者ではなかったか。

 そう考えてしまったほどに、センスと踏み込みがある。安保法制を野党が「戦争法案」と批判したことに対して安倍晋三は「無責任なレッテル貼り」と反論したが、著者はこう打ち返す。

「政治はある意味、言葉の奪い合い。とりわけ、安倍政権下では。『レッテル貼りだ』なんてレッテル貼りにひるむ必要はない。さあ、奪いに行きましょう。堂々と貼りにいきましょう」

 著者はマツコ・デラックスにインタビューして、こんな発言を引き出す。

「いつからか新聞って、公平中立でないといけないものだとみなされるようになって、朝日新聞がその代表になってるじゃない。誰もが不快な思いをすることなく読める新聞をつくろうなんて、初めから闘う意志がないわよ。新聞なんて公平じゃなくていいのよ。朝日なんか貧乏人の味方だけやってればいいのよ」

 著者はその朝日の政治部次長だった。次の開き直りもいい。

「エビデンス? ねーよそんなもん」

 よく、ウラを取って書けと言われるが、私はそれを「訴えられないように用心して当たり障りなく書け」ということだと思ってきた。要するに逃げ腰のおためごかしである。「わが筆禍史」(河出書房新社)に詳述したが、訴えられたり脅されたりしてきた私には、それは闘わない者の言い訳としか思えなかった。鮮やかな小太刀の冴えを見せてくれた著者には、今度は大太刀もふるって訴えられることを望みたい。 

★★半(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「U18代表に選ぶべきか、否か」…甲子園大会の裏で最後までモメた“あの投手”の処遇

  2. 2

    コカ・コーラ自販機事業に立ちはだかる前途多難…巨額減損処理で赤字転落

  3. 3

    日本ハム最年長レジェンド宮西尚生も“完オチ”…ますます破壊力増す「新庄のDM」

  4. 4

    参政党・神谷宗幣代表 にじむ旧統一教会への共鳴…「文化的マルクス主義」に強いこだわり

  5. 5

    山﨑賢人&広瀬すず破局の真偽…半同棲で仕事に支障が出始めた超人気俳優2人の「決断」とは

  1. 6

    ご都合主義!もどきの社会派や復讐劇はうんざり…本物のヒューマンドラマが見たい

  2. 7

    「石破続投」濃厚で党内政局は形勢逆転…そしてこれから始まる“逆襲劇”

  3. 8

    福山雅治「フジ不適切会合」参加で掘り起こされた吉高由里子への“完全アウト”なセクハラ発言

  4. 9

    巨人・坂本勇人に迫る「引退」の足音…“外様”の田中将大は起死回生、来季へ延命か

  5. 10

    自民保守派が“石破おろし”で分裂状態…次期党総裁「コバホークだ」「いや高市だ」で足並み揃わず