力作揃い!大人の漫画&グラフィックノベル特集

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「ベルリン」ジェイソン・リューツ著 鵜田良江訳

 普段着感覚の本ではなく、個性的で挑戦的な本を読みたいなら、壮大なグラフィックノベルや個性あふれる漫画はいかが。今回はドイツ、イタリア、ロシア、日本の挑戦的な本を4冊ご紹介。



「ベルリン」ジェイソン・リューツ著 鵜田良江訳

 1928年9月。物語は、芸術アカデミーの聴講生として初めてのベルリン生活へと向かうマルテ・ミュラーと、週刊誌記者のクルト・ゼフェリングという男が、電車の中で出会う場面から始まる。

 ふたりが着いたベルリンは、文化の薫りが充満する首都でありつつも、次第に経済危機によって人々が心を乱し、過激な政治活動が行われる街となっていった。絵を描くことを志すマルテ、記者としての活動に限界を感じ始めるクルトら、市井の人々の目にワイマール共和国の崩壊はどのように映ったのか。それぞれの人が見た光景とは……。

 歴史の転換点となった1920年代からナチス政権誕生までのベルリンを描いた超大作。578ページにも及ぶ大ボリュームながらも、20カ国で翻訳され、世界のベストセラーとなっている。

(パンローリング 4950円)

「プリニウスXII」ヤマザキマリ、とり・みき著

「プリニウスXII」ヤマザキマリ、とり・みき著

 皇帝ネロの死後に混乱していたローマ帝国が、少しずつ落ち着きを取りもどすなか、プリニウスは博物誌の一刻も早い完成を目指していた。そんな彼のもとに、皇帝陛下からミセヌムにいるローマ艦隊の司令官になるようにという命が下る。

 しかし、彼らを待っていたのは、ウェスウィウス火山の噴火。火砕流がポンペイの街へと流れ込むなか、船は海上を覆う灰と軽石で進路を阻まれ、ポンペイ市民を救出することもままならない。そこでプリニウスの下した決断とは……。

 古代ローマを舞台に、世界的名著「博物誌」を著したプリニウスの生涯を、ふたりの漫画家が合作で描いたプリニウスシリーズ12巻。連載から10年という歳月をかけて、最終巻へとたどり着いた。巻末にはふたりの対談も収録されており、制作秘話も楽しめる。

(新潮社 814円)

「サバキスタン1」ビタリー・テルレツキー作 カティア画 鈴木佑也訳

「サバキスタン1」ビタリー・テルレツキー作 カティア画 鈴木佑也訳

 国境を閉ざして世界から孤立していたサバキスタンは、国民から「同志相棒」と呼ばれるリーダーに統治された最後の社会主義陣営国家。ある日、そんなサバキスタンは同志相棒の壮大な葬儀リハーサルのため、一時的に国境を開放。訪問団を受け入れた。目的は、サバキスタンの栄華と美を世界に示すため。

 ジャーナリストのアンリ・パスカルも、招待を受けてサバキスタンに入国したひとり。しかし彼は、友好の家の敷地で木の枝を折ってしまい、伝説の木の枝を傷つけた罪で追われることに……。

 犬が住む架空の独裁国家「サバキスタン」を舞台にした、ロシア発のグラフィックノベル。

 国民がリーダーを賛美することを求められ奉仕と貧困に耐えるなか、反旗を翻す者の姿を通して、独裁国家へのアンチテーゼを描く。

(トゥーヴァージンズ 1980円)

「陽だまり」安西水丸著

「陽だまり」安西水丸著

 非嫡出子として生まれ施設で育ったボクサー崩れの「俺」は、込山組で働く取り立て屋の品田老人の下で仕事をしている。

 品田老人には、借金の肩代わりをした縁で2年の愛人契約を結んだ加代という女がいたのだが、品田老人の用事で彼女の家を訪ねるうち、「俺」と彼女は男女の仲になってしまった。そんなある日、品田老人に誘われて加代の家を訪ねると、驚いたことに全裸の加代が待っていた……。(「陽だまり」)

 2014年に逝去した著者が残した、エロチックでありつつも、ひっそりとした詩的な印象を残す最後の抒情漫画集。表題作のほか「アメンボ」「ボートハウス」「冬の客」を収録。生前交流のあった村上春樹、柴門ふみ、木内達朗、角田光代、平松洋子、信濃八太郎が著者についてつづったエッセーも一緒に楽しめる。

(講談社ビーシー 1980円)

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