彩瀬まる(作家)

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12月×日 朝、寒すぎて布団から出られない。でも仕事の締め切りはどんどんくる。今年は体調を崩しがちで、いろんな約束を後回しにしてしまった。うーうーとうなりながら這いずり出て、気合いを入れに近所のカフェへ。三上延著「百鬼園事件帖」(KADOKAWA 1760円)を読む。楽しい。昭和初期、私立大学で教鞭を執っていた内田百閒と、なんの変哲もない男子大学生の交流を描いた怪異譚。関東大震災後の東京で、人々が力強く生きている。物語全体がぱっと明るく、軽妙。それなのに明るさの端から悲しくて美しい闇が染み出している。楽しいのに美しいのは本当にいいなあと、元気をもらって自分の仕事をする。

12月×日 今年はスプラトゥーン3でよく遊んだ。イカやタコのキャラクターを用いてカラフルなインクで地面を塗り、ネット上の見知らぬ人と陣取り合戦をするゲームだ。バトルも楽しいが、自分のキャラクターを他のプレイヤーのキャラクターと交流させるのが面白かった。ゲームの仕様で、テキストメッセージは一切送れない。キャラクターの身振り手振り、ロビーを動き回る動作で「ありがとう」とか「負けてしょんぼり」とか「もうやめるね」とかを伝え合う。モーテン・H・クリスチャンセン、ニック・チェイター著「言語はこうして生まれる」(塩原通緒訳 新潮社 2970円)にこんな記述があった。「異なる人間集団の間に共通言語がないときは、新しい言語体系が急速にこしらえられるものなのだ」。真夜中にイカやタコになって、見知らぬ人と、その場でしか意味を持たない新しい言語で遊んでいた。

12月×日 寒い。寒すぎるので暖かい土地の本が読みたい。恒川光太郎著「月夜の島渡り」(KADOKAWA 616円)は沖縄を舞台にした幻想短編集だ。明るい気配と暗い気配、目に映る世界と映らない世界、まっとうな道とそうでない道。そんな隔てられた2つを、作中の人々はすいっと何気なく行き来する。作者の中で、それらが決して隔てられてはいないからだろう。その自在さにただ焦がれる。

【連載】週間読書日記

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