井上理津子
著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

@ワンダーJG(神保町)本も雑誌もボリュームたっぷりの昭和文化の一大エリア

公開日: 更新日:

 驚いた。120坪。とてもとても広い。靖国通り沿いにある、「20世紀記憶装置」をキャッチフレーズに映画、音楽ほか主にサブカル本がぎっしりの「@ワンダー」が2023年2月に2店舗目としてオープンした。パチンコ屋「人生劇場」の跡地だそう。

「店名の“JG”は、『人生劇場』のロゴを引き継いで。『神保町を元気に』の頭文字でもあるから、その思いも込めました」と鈴木宏社長。それにしても、このご時世によくぞ、と言うと、「普段は神保町に来ない人にも足を運んでもらえる空間をつくりたかったんです」。

 コロナ禍に、それまであえてやってこなかったネット販売を広いジャンルで始めた。順調に伸びたが、何しろ鈴木さんは実店舗歴、四半世紀の人。「売るだけでいいのか」との思いに駆られ、「本屋は、見て興味を広げ、手にとって楽しむ場でなければ」と再考した。タイミングよく、この物件との出合いがあったそう。在庫数は? 「3万冊くらいでしょうか」

80年代は雑誌の時代で、近年注目されている

 歴史、民俗、文学、文化史、科学、精神医学、現代思想、政治経済、宗教、漫画、テレビ、サブカル、演劇、歌舞伎、スポーツ、映画、80年代……。目を見張っていると、「一番特徴的なのは、あちらです」と鈴木さんが指す方向に、「昭和文化」の一大エリアがあった。

 大きく「戦前」「昭和20~40年代」「昭和40年代以降」「オリンピック」に分けられ、本も雑誌もボリュームたっぷり。おっ、明治・大正期に少年たちを虜にした「立川文庫」がある、宮本又次の名著「関西と関東」もある、と立ち尽くし、荒木経惟「激写『女優たち』」に首ったけに……。

「昭和」を満喫した後、「80年代」の棚へ移動する。「80年代をくくってみて分かったのは、雑誌の時代で、近年、注目されていること」と鈴木さんがおっしゃる。「ポパイ」「ブルータス」「ホットドッグ・プレス」、それに「少年ジャンプ」もずらり。「84年のドラゴンボール連載開始号は売値10万円ですが、海外の方が興味を示され、もう3冊売れました」って、すごすぎる──。

◆千代田区神田神保町1-4-5 日商第一ビル1階/℡03・5577・6205/地下鉄各線神保町駅A5出口から徒歩1分/月~土曜11~20時(日・祝日11~19時)、年末年始のみ休み

ウチらしい本

「OMIYAGE YMO写真集」GORO特別編集 1981年 島本脩二、根本恒夫編集

「空前のYMOブームに出た写真集です。テクノファッションに身を包む細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏のプライベートな写真やインタビューが満載で、発行部数が少なかったため貴重。ところで、坂本龍一のお父さんは、三島由紀夫や野間宏らを担当した河出書房の編集者でした。そのお父さんから、どういう文化エッセンスが坂本龍一に継承されたかについて研究が進むといいのですが」

(小学館刊 売値2万円)

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