劣化するニッポン

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「自壊する『日本』の構造」長谷川雄一ほか編

 自民党内派閥の裏金問題をはじめ、日本社会の劣化を示す深刻な兆候。いまや放置できない危機が迫っている。



「自壊する『日本』の構造」長谷川雄一ほか編

 日本の社会は劣化を飛び越えて「自壊」しつつあるのではないか。本書のタイトルはまさにそんな問いを突き付ける。日本政治の保守化、右傾化、反知性主義を考える研究会につどったのは宗教学者、政治学者、ジャーナリストに元官庁エコノミストと多士済々の顔ぶれ。およそ6年半で計70回もの蓄積を経てまとまったのが本書だ。

 沖縄にすべてを押し付ける「異形の安全保障」や原子力政策の失敗と「学べぬ国・日本」の解剖、劣化を経て堕落する一方の政党政治など、多彩な題材で議論が繰り広げられる。「戦後70年以上もの間、失敗からの教訓を学ばずに継続してきた」のが日本だ。

 歴史と現状を自由に飛び回りながらの日本論はまさに多面体。時代の変化が求めるさまざまな課題はどの社会にも共通しているが、本書を読むと日本はさながら麻痺か思考停止したかのように、問題の核心から目を背けていることが実感されるだろう。

「自壊するマスメディアからジャーナリズムを救出できるか」(畑仲哲雄)という論文では販売部数の急減による大手新聞社の情けない実態が浮き彫りにされる。 

(みすず書房 4180円)

「日本の歪み」養老孟司、茂木健一郎、東浩紀著

「日本の歪み」養老孟司、茂木健一郎、東浩紀著

 いずれ劣らぬ人気論客3人がつどい、「この社会の居心地の悪さ」を論じぬく。

「バカの壁」がベストセラーになった解剖学者は、焼け跡闇市世代のひとりとして、敗戦を機にあっさり変節した日本社会への違和感を抱き続けた。

 他方、団塊ジュニア世代の評論家は、原爆を落とされた日本人が被爆をあたかも天災のように受け止め、アメリカに対する憎悪を持たなくなったことに強く疑義を呈する。

 両者の間に立つ世代の脳科学者は日本国憲法を「念仏っぽい」という。「世界がどのように変化しても、この憲法を唱えていれば平和が保てると信じている」のだと。

 三者三様ながらリベラルでも保守でもない立場で日本社会に鋭い批判を繰り出す、呼吸がぴったりと合ったタイムリーな読み物になっている。

 (講談社 1100円)

「ニッポンの正体」白井聡著 聞き手・高瀬毅

「ニッポンの正体」白井聡著 聞き手・高瀬毅

「永続敗戦論」で戦後日本の虚妄を鋭く突いた政治学者とジャーナリストが語り下ろしの対談形式でインフレ、米軍基地、米中関係、NHKなどを縦横に論じたのが本書。

 第2次安倍政権が発足した2012年、「安倍1強体制」が確立したという。

 それは前年に起こった「3.11」以後の日本人の「一般的欲望」を体現するものだ。いわく、GDPが下がっても貧困に苦しむ子どもが増えても「ニッポン、スゴイ!」と思いたいという内向きの欲望だ。

 メディアの世界では新聞の影響力がダダ下がりし、民放も広告料収入が激減してNHKだけが独り勝ち。しかし、本書に登場する元NHK記者によれば、内部ではみなビクビクして発言を控え、出演者も当たり障りない面々にいつの間にか交代させられている。

 政治と社会の具体的な情勢を踏まえ、舌鋒鋭く日本の「いま」を解体する。  

(河出書房新社 1980円)

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