阪神1位近大・佐藤は「三塁手」“ドラフト通”安倍氏が総括
10月26日に行われた2020年ドラフト会議。それぞれ4球団が競合した近大・佐藤輝明は阪神、早大・早川は楽天が当たりクジを引いた。今年のドラフトで目立った成果を上げた球団、上げられなかった球団はどこか。また佐藤を巡っては、阪神が外野起用構想を掲げる一方、佐藤本人は三塁を希望。早くもポジション問題が勃発している。今年のドラフトについて、「流しのブルペン捕手」こと、アマ球界に詳しいスポーツライターの安倍昌彦氏に総括してもらった。
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■最も成功したのは楽天
――大学、社会人の即戦力選手が1位、2位を占める中(24人中18人)、特に成功したといえる球団はどこですか?
「競合した選手を1位指名できた球団はそれだけで満足度が高いドラフトと言えますが、補強という意味で成果を上げたのは楽天でしょう」
――1位で早川の指名に成功。2~4位も大学、社会人の投手を指名した。
「何より早川を取れた上に、2~4位の3投手(2位高田=法大、3位藤井=ENEOS、4位内間=亜大)は、来季開幕から出てくる可能性がある。2位の高田は将来、早川と左右の先発2本柱を形成するかもしれない。最速155キロという『数字』で語られがちですが、決して力任せに投げない。平塚学園高時代から両サイドを用心深く丁寧に突き、低めの制球力がある。大学4年間でパワーが加わり、非常に理想的な成長をしています。おそらく回転数の高い、三振が取れる速球を丁寧に投げられる。(1年目から)先発として最低、5~6イニングをつくれる資質は十分にあります」
――楽天以外に目立った球団はありますか?
「これぞ、よくやった!と言えるのはオリックスですね。1位で山下(投手=福岡大大濠)、2位で元(外野手=中京)を指名。5年後のチームのエースと4番になりうる選手を指名した。この2人だけで十分、100点満点です。山下はまだ下半身の力強さが足りないものの、7割の力で150キロを投げる。上半身、下半身のバランスが取れるようになれば、それこそ笑いながら160キロを投げると思う。元は今年、遊撃手に挑戦。巨人の坂本のような中軸を打てるショートになる可能性を秘めている。長打力、肩の強さ、体の強さ、野球に対して一途な姿勢は、まさに『鈴木誠也2世』。二軍では主に遊撃を守る19年ドラフト2位の大型内野手・紅林とのポジションの兼ね合いもありますが、将来的に元と紅林が三遊間を組むことになれば、非常に華がありますよね」
■西武にビックリ
――指名選手の顔ぶれや戦略に疑問を感じた球団はありますか?
「今年に関しては、基本的にどの球団も補強ポイントを埋めるなど、うまくやったと思います。ただ、西武にはビックリさせられましたね」
――早川の外れ1位で渡部(桐蔭横浜大)を指名しました。
「今年のドラフトは、歴代5指に入ると思えるほど、上位選手の人材が豊富。オリックスが外れ1位指名した山下など逸材が残っている中で、西武はポンと渡部を指名した。2位で他球団に取られたくないと考えたのか……。同じ大柄体形の中村(01年2巡目)、山川(13年2位)が活躍、16年にはトヨタ自動車時代は9番打者だった源田を3位指名し、『何でトヨタの9番が3位なの?』という声も出ていたようですが、1年目に新人王を獲得。アッと驚く指名を成功させてきた。西武なりの勝算があるのでしょうが、まずは来春キャンプでお手並み拝見といったところでしょうか」
華のある三塁で大成を
――阪神は佐藤を引き当てましたが、佐藤の本職である三塁には大山がいるため、矢野監督は外野で起用する構想がある。
「佐藤本人が三塁を希望しているようですし、私もぜひ、三塁手として大成してほしいと思います。佐藤は大学入学当初は外野手で、レギュラー三塁手よりもうまいということで三塁に回ったそうです。敏捷性があって身のこなしも良く、プロでゴールデングラブ賞を取れるくらい。二塁でもそこそここなせるんじゃないか、と思えるほどです」
――一度、外野で固定されると、三塁をやるのは難しい。コンバートの成功例も少ない。
「三塁の練習をしても、練習と試合の打球は全く違います。何より、187センチ、94キロと大型の佐藤がホットコーナーを守れば、内野が黒土の甲子園なら、カクテル光線に奇麗に映えるはず。エラーをしても絵になるでしょう。阪神のスーパースターになれる資質を持つ選手なのですから、きちんと起用法を考えないと獲得した意味がない。大山に忖度しているのかどうかはわかりませんが、大山の三塁守備は比較的腰高に見え、ゴールデングラブ賞を取り続けるほどの守備力があるかどうか……。持ち前の打撃に専念する上でも、大山を一塁にコンバートし、佐藤を三塁手として鍛えてほしいと思いますね」
――外野だと、近大の先輩である糸井とのレギュラー争いが必要です。
「それはもったいないですね。佐藤のような選手は1年目からレギュラーで使うために獲得する選手。誰かと競わせるとか、そんなレベルの選手ではない。近年のプロ野球界はかつての長嶋茂雄、有藤通世のような、いわゆる華のある大型三塁手が不在。佐藤にはその資質があると思いますし、そのような存在になりうる選手がようやく出てきたと思う。三塁挑戦は、佐藤のモチベーションにもなる? そうですね。名前から言っても“明るく輝く”ポジションはホットコーナーだと思いますね」