「昭和の名騎手」江面弘也著

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 戦前・戦後にわたって活躍し、引退後は競馬中継の名解説者として知られた「ナベ正」こと渡辺正人に始まり、若いファンに絶大な人気を誇ったスタージョッキー田原成貴まで、昭和の名騎手30人の騎手人生を素描したジョッキー列伝。オールドファンには懐かしい名前が、時代を追って次々に登場する。

 渡辺正人、蛯名武五郎、高橋英夫と続き、4番手は保田隆芳。戦前に騎手となったが、陸軍歩兵として出征し、戦後、競馬再開と同時に復帰。その後渡米し、アメリカ式の「モンキー乗り」を会得して日本競馬の騎乗スタイルを変えた。次に登場する「ミスター競馬」こと野平祐二は、「ただ勝つのではなく、格好良く勝たなければならない」と考え、ファンやマスコミを魅了して、発展途上の競馬界を牽引した。

 時代は下って戦後に生まれ、貧しさの中で競馬界に進んだ福永洋一は、大胆で挑戦的なレースで天才と呼ばれたが、30歳のとき落馬で脳挫傷、一命はとりとめたものの2年後に引退する。

 孤高の名手、岡部幸雄は理想の競馬を追い求めた騎手でもあった。徒弟制度が残る厩舎社会の絆を断ち切り、フリー騎手の先駆けとなった。馬の将来を考え、鼻差でもしっかり勝たせる。ファンやマスコミ受けするパフォーマンスを好まず、競馬の主役は馬であることを訴え続けた。38年の騎手人生を終え、56歳で引退。競馬記者としてこの世界を見続けてきた著者は、岡部引退のそのとき、「日本の競馬はようやく岡部が求めていた競馬になりつつあったのだ」と書いている。

 勝利と敗北、栄光と挫折、馬との出合い、酒、落馬事故……。三十人三十様の騎手人生があった。闘将、豪腕、魔術師、鉄人、穴男もいた。昭和の競馬は騎乗技術も未熟でスマートではなかったが、騎手たちは実に個性豊かだった。

(三賢社 980円+税)

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