金持ち連中の中で道化じみていくカポーティ

公開日: 更新日:

「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」

 トルーマン・カポーティはスコット・フィッツジェラルドと並ぶ20紀アメリカ文学史上の悲劇の天才。若くして文壇で成功を収め、一躍注目の若手になるものの、名声につきものの虚栄にあらがえず、結局は自滅した。彼の悲劇はそういうものだった。

 現在公開中の映画「トルーマン・カポーティ 真実のテープ」は、この自滅の後半生に焦点を当てたドキュメンタリー。「真実のテープ」とは編集者のジョージ・プリンプトンが本人や友人、知人にインタビューしたカセットテープのこと。つまりプリンプトンの評伝「トルーマン・カポーティ」(新潮文庫)の映画化といってもよいのだが、見るとカポーティの横顔とともに彼をとりまいたニューヨークの金持ち連中の鼻につくたまらなさが迫ってくる。

 若いころはまるで小柄な妖精のようだったカポーティ。身長160センチあるかないかの短躯で、そのせいか昔の写真はどれも上目づかいだ。それがハイソ気取りの富豪夫人たちと口さがないおしゃべりにかまけるうち、次第に人を小ばかにしたような流し目になってゆく。女たちはどれも金と暇で作り上げた美貌ながら、やがてカポーティが社交界の暴露小説「叶えられた祈り」を発表したとたん、手のひらを返して彼を追放した。

 ニューヨークの上流社会と称するところは俗物根性の見本市だが、映画はその腐臭をとらえて余すところがない。ひるがえって、しかし人は、あんなにも道化じみてしまったカポーティが本来持っていた天稟のひらめきを、せめて確かめたいとも思うだろう。

 トルーマン・カポーティ著「ここから世界が始まる トルーマン・カポーティ初期短篇集」(小川高義訳 新潮社 1900円+税)は16歳から20歳すぎにかけて書かれた習作集。O・ヘンリー賞を受けてデビューしたのが19歳だから、まさに原石が化学変化で宝石に化けるさなかの短編群である。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  3. 3
    無垢で可愛かったのに…元有名子役・若山耀人逮捕の衝撃! NHK大河「軍師官兵衛」にも出演

    無垢で可愛かったのに…元有名子役・若山耀人逮捕の衝撃! NHK大河「軍師官兵衛」にも出演

  4. 4
    岸田首相含め政務三役31人、渡航費用12.6億円!円安放置し“血税ごっつぁん”外遊三昧のア然【リスト付き】

    岸田首相含め政務三役31人、渡航費用12.6億円!円安放置し“血税ごっつぁん”外遊三昧のア然【リスト付き】

  5. 5
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  1. 6
    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

  2. 7
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  3. 8
    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

  4. 9
    若林志穂さん「Nさん、早く捕まってください」と悲痛な叫び…直前に配信された対談動画に反応

    若林志穂さん「Nさん、早く捕まってください」と悲痛な叫び…直前に配信された対談動画に反応

  5. 10
    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前

    巨人の得点圏打率.186は12球団最低…チャンスに滅法弱く、立場が危うくなった打者3人の名前