笑福亭鶴光さんと酒の思い出 師匠6代目松鶴の“白鷹騒動”とチークダンスのトラウマ

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笑福亭鶴光さん(落語家/73歳)

 落語家としてもラジオパーソナリティーとしても長きにわたって活躍している笑福亭鶴光さん。酒の思い出といえば、師匠の6代目笑福亭松鶴とのエピソード。二十歳で無理に飲まされたり、師匠の奥さんとチークダンスを踊って痛い目に遭ったりで……。

 ◇  ◇  ◇

 私は松鶴の弟子ですから、酒はよう飲みましたよ。19歳で弟子入りしまして、二十歳になった時にね、うちの師匠が黒田節に出てくるようなデカい杯にお酒を半分くらいまで入れて、「これを一気に飲め」といきなり言うんですよ。

「何でかな?」と思いながらも飲むと当然、記憶がなくなるわけです。あくる日に師匠に、なぜそんなことしたのか尋ねたら、「おまえの本性を知りたかった」と。普段どんなええこと言っていても、人は酒を飲むと本音を言うからと。

「僕、どんなこと言うてました?」と慌てて聞いても、「それはワシの記憶にとどめておく」と。そういうことする師匠でしたわ。私は何を言うたか心配で仕方なかったけど、あの日に私が何を言うたかは最後までわからずじまいでね。

 その割にうちの師匠は弟子と飲むのはイヤがった人です。弟子は師匠の前では緊張してそんなに飲まないでしょ。逆に師匠はベロベロになる。だから「俺の本性を弟子に見られるのはイヤや」と(笑い)。おもに春団治師匠と飲みに行っていたんでしょうね。まあそんな場所に連れられても息苦しくて私には拷問ですけどね。

 うちの師匠は白鷹ていう酒が好きやったんです。でも、ある日、白鶴酒造がお金を出してくれて落語会を開いた時に、白鶴酒造のお偉いさんが見ている前で「やっぱり酒は白鷹だな」と言うてもて。

 客席が「何を言うんや」と笑ってザワついたら、師匠はウケたと勘違いしてもう一回「酒は白鷹でんな」と言ってしまって。

 結局は僕が偉いさんのとこに行って「すみません。そろそろボケがきてますねん」と謝って。そしたらそこに師匠がやってきて、「すみませんなぁ、家ではいつも白鷹飲んでるもんですから」と言ってしもうて。もう向こう行け! と思いましたよ。

師匠の奥さんに誘われ飲みに出かけ…

 私がしくじったこともありましたよ。22か23歳の頃に、師匠の奥さんに飲みに誘われた夜ですわ。師匠の弟子には仁鶴師匠がおったけど、私よりだいぶ年上でしたから、奥さんは若い私が可愛くてしょうがなかったんでしょうね。年の差は親子みたいなもんだから。

 しょっちゅう飲みに連れてってくれて、その夜は師匠の行きつけのバーに奥さんと出かけて、突然「踊ろうよ」と言われまして。奥さんに言われたら断れないし、酔った勢いでチークダンス踊ってたら、たまたま店に師匠が入ってきて、いきなりジュークボックスの角に頭叩き付けられて。2針縫いましたよ。

 それがトラウマになって、「ああ、酔っぱらうのは命に関わるからやめよう」と思いました(笑い)。

松方弘樹は毎月2回総勢30人で豪快な打ち上げを

 若い頃、豪快な飲み方というかお金の使い方で覚えてるのは松方弘樹さん。うちの師匠がテレビドラマ「人形佐七捕物帳」(1965~66年/NHK)に出演した時、収録が終わるたびに主演の松方弘樹さんがスタッフ、出演者の30人を連れていく打ち上げがあったんです。1軒目が料理屋で2軒目がクラブ。

 2本どりだから毎月2回の打ち上げを3カ月ずっとですよ。ひと晩に100万円くらい使ってたんですかね?

 監督がカラオケで「夜霧よ今夜も有難う」の替え歌で「弘樹よ~今夜も有難う~」とヨイショしてましたからね。私は「松方さんはどんだけお金を持ってるのかなぁ」と思ってましたよ。

 私自身の酒は明るい酒で酔うと歌ったり踊ったり大変ですわ。でも、今のご時世だと酔っぱらってしくじったらえらい目に遭うでしょ?

 だから仲のいい友だちとは日本酒で酔っぱらってもいいけど、お付き合いしなきゃならない時は焼酎の炭酸割りにしてそんなに酔わないようにするんです。

■コロナ禍は高い日本酒で家飲み

 今、コロナ禍で飲みにも行けないので、生意気に4合瓶で3000~4000円とかちょっと高い酒を買ってきて、家で飲んでます。「醸し人九平次」とか一人でナイター見ながら、チビチビと。

 一番凝ってる酒は福八といって、秋田県の建設会社の社長が造っていてね。「うまい!」と思いましたね。昔の酒みたいにお酒お酒してなくて、飲めば飲むほどスースーと入ってくる感じ。他にも新政№6も好きで、また飲みたいですわ。

 4合くらいすぐ空きますね。家で飲むようになって「俺はいかに外で高い金使って飲んでいたのか」がわかりました。「こんなええ酒をこの値段で飲めるんだ」と家飲みしてるとだんだんケチになってくる(笑い)。

 それでも、やっぱり外で飲みたいものですな。そんな日が来るのを待ってます。

(聞き手=松野大介)

▽笑福亭鶴光/本名・小林幸男 1948年1月、大阪府出身。高校卒業後に笑福亭松鶴に入門。東京・大阪で長きにわたって活躍。「鶴光の噂のゴールデンリクエスト」(ニッポン放送)ラジオ界屈指の名コンビ、鶴光&田中美和子がまたまたレギュラー番組に降臨!(10月19日スタート/毎週火・水・木曜17時30分~)

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