戸田和幸氏がW杯“死の組”での日本代表を占う「超ハードワークできれば不可能も可能に」
「ボールを持っている時に休め」
──タフなW杯を乗り切るためには?
僕も渋谷シティFCの選手に「ボールを持っている時に休め」とよく言うんですが、適切な位置関係をつくった上でボールを持つことができれば、相手選手を走らせたり、止めたりしながら休むことが可能になりますし、向かってくる相手の力を利用してゴールに向かっていくこともできます。W杯同組の強豪相手に主導権を握るのは難しいですが、徹底した分析に対策、そして“スーパーハードワーク”ができれば不可能も可能になる。極めて重要なのが初戦のドイツ戦。18年ロシアW杯の初戦でメキシコがマンツーマン気味の戦術でドイツを倒しましたが、そういうことがカタールでできるかどうか、ですね。
──戸田さんが考えるドイツの特徴は?
最高峰レベルのバイエルン・ミュンヘンで仕事をしたフリック監督の就任後、ドイツ代表のインテリジェンスや完成度は相当に上がっています。技術、戦術ともに各選手が標準装備しているレベルは高く、とにかく走れるので攻守の連続性も素晴らしい。GKノイアー(バイエルン・ミュンヘン)、DFリュディガー(チェルシー)、DFジューレとボランチのキミヒ(ともにバイエルン・ミュンヘン)、ボランチのギュンドアン(マンチェスター・シティー)とセンターラインは強固です。そして前めのハフェルツ(チェルシー)やミュラー(バイエルン・ミュンヘン)らが、相手ゴール前にどんどん飛び出してくる。この相手から勝ち点を取ろうと思うなら、小さな可能性を膨らませるしかない。W杯は初戦が全てです。今のドイツが相手だったら、日本代表は3バックも一案かな、と。全ては森保監督の日本代表とドイツ代表の評価と分析次第。スタッフと一緒に模索していくはずです。
■スペインには互角に戦える武器が日本にはある
──コスタリカとスペインは?
コスタリカはあまり見ていないのですが、日本がボールを持たされる展開が想像できます。結果的に試合の主導権を握られたら、勝利は遠のくでしょう。この試合は絶対に勝ち点が必要。先手を取ることが肝心です。スペインはボール保持と前へ運んでいくのが世界一うまい。そのスタイルをどんな相手でも貫く。ただし、ドイツとは選手の配置が違う。攻撃的な選手が両サイドで幅を広く取り、ボランチのブスケツ(バルセロナ)を中心にボールをつなぎながら前に出ていくのですが、ドイツのようにスピードを一気に上げるわけではない。“スーパーハードワーク”をしたら互角に戦える部分もあるでしょうし、ドイツよりはカウンターを繰り出しやすい。打開の糸口は見いだせると信じています。
──本番4カ月前の選手たちに言いたいことは?
代表というのは、毎試合が生き残りレース。振り返ると開催国に課せられたものによる重圧は大きかった。「W杯で日本サッカーの今後が変わる」という使命と責任も感じながらの日々だったので、プレッシャーに押し潰されそうになった時もあった気がします。ですが、最後はそこまでの個人の努力とチームの取り組みを頼りに、思い切ってプレーできた。サッカーは「全てを成功させよう」と思うと苦しくなるスポーツ。エラーを恐れず、エラーからもチャンスをつくるんだ、という気持ちで思い切ってプレーしてほしいです。
──W杯の楽しみ方は?
4年に1度しかない夢の舞台ですからね。母国のプライドを背負った各国の選手が、どんな顔つきでプレーしているか、それを見るだけでも楽しいでしょう。日本にとってドイツやスペインは巨大な壁ですが、チャレンジしがいのある相手。とにかく迷わずにプレーすることが大事。チュニジア戦の後、三笘薫選手(ブライトン)が「(攻撃面の)狙いの細かさが足りてない」と発言したことが耳に入ってきましたけど、そういった部分をどこまで徹底的に詰めていけるか、ですね。例えば右サイド、左サイド、中央など近い位置の選手同士がユニットとしての約束事をしっかりと構築すること。その作戦づくりをこれから4カ月かけてやってほしいと願います。
(聞き手=元川悦子/スポーツライター)
▽戸田和幸(とだ・かずゆき)1977年生まれ。神奈川県出身。桐蔭学園高から96年に清水入り。2001年にCBからボランチにコンバートされると日本代表のトルシエ監督から高評価を受け、レギュラーとして臨んだ02年日韓W杯の全4試合にフル出場。「髪を真っ赤に染めたモヒカン姿」で大きな存在感を放ち、献身的な守備でベスト16進出の原動力となった。W杯後は英プレミアの名門トッテナムに移籍。オランダ、韓国、シンガポールでもプレーした。13年に現役引退。「サッカーの奥深さ」を的確に伝えられる解説者として国内外のサッカー中継に多く出演中。