元川悦子
著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

原口元気の父・一さんがエール「もっと強気な自分を出してやんちゃなプレーでゴールを」

公開日: 更新日:

4年前に味わったロストフの悲劇

 ──その狙いを本人に聞いたことは?

「だいぶ後になって『何やってたんだよ』と言ったら『俺だってびっくりしたよ』と返してきた。2メートルの長身GKクルトワ(レアル・マドリード)を前にして『彼が出てこなかったんで一瞬、間合いを外して決めた』と言っていました。『CBの動きが遅くて余裕があった』とも話していた。納得した覚えがあります」

 ──後半52分に乾貴士(清水)の追加点も生まれ、一時は2-0でリードした。

「『こんなこと自分が生きてるうちに起きるんだ。勝てる』と思いました。でも1失点目のフェルトンゲン(アンデルレヒト)のゴールが全てだった。2失点目のフェライニ(山東泰山)も、あの場面しか彼は仕事をしていなかったのに……やられてしまった。そして元気は後半81分に本田圭佑選手と交代しました。経験値を考えると仕方ないな、という感じでした」

 ──そして後半ロスタイムに悲劇が起きた。

「呆然としました。妻とホテルに戻ったけど、脱力感で着替えもできない状態でした。テレビ局の取材が入っていたので行きましたが、彼らも慌てていたのか、(収録した)データが飛んでしまい、やり直しになりましたね。その時、ロシアの軍人が通りかかって『今日の試合で日本の魂を見た』と声をかけられ、私に帽子をかぶせてきた。帰国後に海上自衛隊勤務の長男(嵩玄さん)に見せたら『本物だよ』と言われて驚きました」

■親の目から見ても凄まじい向上心

 ──その後の4年間、原口は代表の常連でありながら苦しい立場にいる。

「元気は実家に戻ってきても多くを語らないのですが、『俺は大丈夫』『何としても這い上がる』と言い続けています。ドイツではハノーファーで2年間2部で戦うことになり、21年夏からウニオン・ベルリンでプレーしてますが、ドイツでタフな経験を積み重ね、何事にも動じない強さを身に付けたのかな。ドイツ語も『生き抜くために必要な手段』と割り切って努力して学んでいる。向上心は、親の目から見ても凄まじいですね」

 ──カタールW杯で期待することは?

「息子が出る試合というのは、全てにおいてワクワクします。ベルギー戦のゴールも後々になって『凄かった』と実感することになるでしょう。今は目の前にカタールが迫っているし、今度は<ヤンチャなプレー>をしてほしいかな。浦和レッズ時代によくやっていたカットインからのシュートを大舞台で見たいというのが私の願いです。最近は、そういう大胆さが少し物足りない。人間的には大人になりましたけど、選手としてはもっと強気な自分を出していい。インサイドハーフでも他の中盤のポジションでも、そういう仕事はできると思うので、ガンガンやってもらいたいです」

 ──本人は今、どんなことにトライしているのか?

「ヘルタ・ベルリンの頃から師事している筑波大の谷川聡准教授の指導の下、スプリント力を高める練習に取り組んでいるようです。これまで<止まる練習>から<効率的な走り>とメニューを消化し、最終段階の今はスタートダッシュ、トップスピードで<走る力>に磨きをかけている。ウニオンの試合を見ていると『成果が出ているのかな』と感じます。スペイン人の分析官と個人契約を結んでいるので課題を抽出し、反復練習もやっています。彼との関係はハノーファー時代からで試合後、映像分析をやってオンラインでディスカッションを重ねていると聞いています。守備の行き方、スペースの埋め方、出ていくタイミングなど細かい部分に目を向けるのは、現代サッカーでは重要。元気はどこまでも貪欲なんですよ」

 ──カタールW杯の現地観戦予定は?

「もちろん今回も妻と一緒に行きます。元気の立ち位置はロシアとは全く違いますし、今回はどこまで試合に出られるか分かりませんけど、ロストフの悲劇を実際に味わった分、完全燃焼してほしい。日本代表も『やり切った』と思えるような内容と結果を見せてほしいと願っています」

(聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト、絹見誠司/日刊ゲンダイ)

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