「いい肥満、悪い肥満」伊藤裕氏

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 肥満に「いい」とか「悪い」とかあるのか。本書の表紙を見た途端、そう思った読者も多いはずだ。昔から「肥満大敵」と言われ、肥満は不健康で、さまざまな病気のもととなり、世間では「肥満=悪」だと認識されがちである。

 そんな世の中の傾向に「全ての肥満を十把ひとからげに考えてはいけない」と抗加齢医学の第一人者である著者は、警鐘を鳴らす。

「今世紀になってから、太っていても病気になりにくい人の存在が分かってきました。ワシントン大学の教授によりメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の人が罹患する糖尿病や脂質異常症などの代謝障害とそれに伴って起こる心筋梗塞や脳卒中などの血管の病気が起こりにくい肥満があることが明らかにされました。これが“いい肥満”ですね。科学の進歩でいろいろなタイプの肥満が解析されてきているなか、本当にリスクの高い人は気をつけなくてはいけないが、それほどリスクの高くない人が妙に警戒しすぎるのも良くないと言いたいのです」

 本書は、肥満が人間の延命のために必然的に生まれたことや科学の発達と共に新しい肥満に対する考え方が生まれていることを紹介し、健康的に太ることを提言する。

 いい肥満の人とは脂肪細胞(脂肪をため込む細胞)が本来の機能を十分に果たす、優秀な皮下脂肪細胞を持っている人だが、たとえば、余ったカロリーを中性脂肪として蓄積し、寒冷などの厳しい環境下に置かれたときには熱源として脂肪酸を血液中に放出することができるのだ。

■悪い肥満を見分ける3つの方法

 一方、悪い肥満の人は、だめな皮下脂肪細胞を持ち、余剰カロリーが内臓脂肪、あるいは肝臓や筋肉にたまってしまう。

「中年男性(45~64歳)の肥満は悪い肥満が多い。にもかかわらず、この年齢層の男性は自分の健康に無頓着で、太っても見た目を気にしない傾向があり、その結果、中年男性の肥満人口は増加し続けています」

 悪い肥満を簡便に見分けるには、①脂肪肝になっていないか②肝機能の状態が悪くないか③血液の中性脂肪の値が高くないかの3つの方法で計測してみることだという。

 高齢になるにつれ、体重増加やBMI(体格指数)は頭打ちになりやすく、体重増加が収まったと勘違いする人も出てくるが、これは運動不足の結果、筋肉が落ちてきたことを示しているため要注意である。

「いい肥満、いい体形は年齢によって変わってくるため、BMIを過信しすぎないことです」と著者。

「正しく太る、いい肥満になるためにはその人に適したカロリーの食事を1回で食べるのではなく、1日の中で分食して適度な時間帯にきちんと摂取することです。夜の食事は避け、毎日、比較的同じような時間帯に食べることが大事ですね。また、食事を取る時間が遅くなると悪い肥満につながりますから、朝食から夕食までを12時間以内に済ますこともお勧めします。食事時間を制限することで生まれる空腹時間に飢餓のシグナルが動くことがいいのです」

 ほかにもグルメダイエット方法や食事ノートのすすめなど、正しく太るための方法も紹介。

 現代の健康長寿に必要なことは、痩せることではなく、いかに正しく太れるかだと新常識を教えてくれる一冊だ。

(祥伝社 946円)

▽いとう・ひろし 1957年、京都市生まれ。京都大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。慶応義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授、医学博士。日本肥満学会理事、国際高血圧学会副理事長も務める。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。

【連載】著者インタビュー

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