今更「アイドル」になろう。そして、安倍なつみとCoCoの追憶

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コクハク

「おら、アイドルになる!」

【「イキてく強さ」】

「おら、アイドルになる!」

 そう叫んで、女の子走りでステージから捌けた瞬間、自分でブッと吹き出してしまう。アイドルなんて、私から最も遠いキャラクターだ。

 顔面はメイクで誤魔化せても、アイドルな自分に耐えうるメンタルを持ち合わせていない。

 頬を膨らませたプンプン顔や、舌足らずで甲高い声が、アイドル用に作られたものであることは誰もが承知だ。それでも、ナチュラル・ボーン・アイドルを貫き通す強い心が必要なのだろう。

 それは私にとって、バカ殿の顔で足袋だけ残した全裸になるより、難易度が高いように思われた。

アイドルグループ「CoCo」の記憶

 アイドルの知識は平成9年、「モーニング娘。」のデビュー当時で止まっている。CDを買った記憶は、さらにさかのぼってCoCoまでだ。

 CoCoは昭和64年にデビューした4人組で(デビュー時は5人)、平成6年に解散。センターは羽田恵理香、ショートカットの宮前真樹とぶりっこ担当の三浦理恵子が人気を二分し、最年少で最も大柄な大野幹代は、最も地味な存在だった。

 安倍なつみ推しの私は、やはり羽田恵理香推しであったのだが、なぜか視界の隅で、いつもミッキーこと、大野幹代を追っていた。見た目通り真面目な性格のようで、歌声も三浦理恵子とは反対の、低く落ち着いたアルトだった。

 ミッキーはどう見てもアイドルというキャラクターではないのに、アイドルをやっている。その違和感が心に引っかかっていた。

ストリップ界の「アイドルさん」
 ストリップは基本的にグループを組まないが、松浦亜弥のように、ピンのアイドルは多数存在する。彼女たちは「アイドルさん」などと呼ばれ、フワフワのドレスを着て、かわいらしいダンスを踊る。

 新人ストリッパーのデビュー作は、本人のキャラクターや趣味に関わらず、アイドル演目であることが通例だ。まずは従順な初々しさをアピールしたほうが、古参のお客に受け入れられるからだろう。

演じるのは「アイドルになれない女の子」

 ところで私の新作は、“アイドル演目”ではなく、“アイドルになれない演目”である。東京でアイドルになることを夢見る、アイドルになれなさそうな、東北生まれの女の子の成長譚だ。

 衣装はメロンクリームソーダ色のワンピース。丈が極めて短く、レースのパフスリーブで、ちょっとエッチなウェイトレスの制服みたいなデザインだ。

 パステル色もフレアスカートも全然似合わない。いいぞ、いいぞ。似合わなけらば似合わないほどいい。タイトルは『おら、アイドル』だ。

そして「オモエロかわいい」を目指す!

 初出しの『おら、アイドル』は、体より心が負けて、中途半端に終わった。客席も、反応に困って静まり返る。それでも懲りずに、毎日踊り続けていると、やがてアイドルっぽい所作を体得し、誇張できるようになった。

 貝になった客席も、徐々に口を開いて、笑いが溢れる。とはいえ、匙加減が難しい。アイドルの「かわいい」は「オモロい」に限りなく近く、ストリップの「エロい」と「オモロい」の瀬戸際に似ている。

 ぎりぎりのラインを攻めて、オモロかわいいアイドルに「エロい」の感情までプラスできたら、オモエロかわいい、最強のストリップアイドルの爆誕だ。

世間は垢抜けていくなっちに夢を見た

 モーニング娘。の安倍なつみは、北海道から出てきた少女だった。彼女が垢抜けて美しくなり、歌もダンスも洗練されていく様に世間は夢中になったのだ。

 それはストリップも同じである。スキップもできないままステージに立った踊り子が、立派に育っていく過程こそが、ファンを夢中にさせる。

アイドルと対極にいる私の奮闘が…

 あいにく私は、最初からスキップくらいはできたし、妙に肝が据わりきって、初々しさのかけらもなかった。これでは新人好きのお客もガッカリだったろう。

 だが、アイドルと対極にいる私が、今更アイドルになろうと奮闘する過程が、誰かの心に引っかかるかもしれない。

 目指すは、令和のミッキーだ。

(新井見枝香/元書店員・エッセイスト・踊り子)

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