監督はスノーデンが見込んだ反権力の映画人

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 インターネットが権力に抵抗する民衆の魔法の鏡のように言われた時期がある。「アラブの春」のころだが、果たしてその後はどうか。むしろネット時代の民衆はさらに徹底した監視下なのではないか――。

 そんなことを思わされるのが先週末封切りのドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」。米NSA(国家安全保障局)の若い職員が職務上の機密を暴露し、米政府による世界の監視体制を告発したのが3年前。独メルケル首相の電話まで盗聴していたという騒ぎは記憶に新しい。

 だが、この映画を見るまで暴露主のエドワード・スノーデンのことは正直、ひきこもりのオタク程度にしか思えなかった。猫背でインスタントラーメンをすする姿をテレビで見たときは肩透かしを食った気分だったのだ。

 ところがこの映画で印象は一変。実は監督のローラ・ポイトラスはスノーデンがこれぞと見込んだ反権力の映画人。自身は終始カメラのうしろで姿を見せないが、最初に接触した香港でのインタビュー場面からして異様な迫力。巨悪に触れた若者が売国奴の汚名を覚悟で臨んだ気迫と、社会派には珍しいポイトラスの映像センスがかみ合って独立系の米ジャーナリズムの気概と実力が実感されたのだ。

 マーク・マゼッティ「CIAの秘密戦争」(早川書房 2200円+税)はスノーデンが一時在籍したCIAの裏工作をつぶさに描いたノンフィクション。冷戦後、じり貧に追い込まれていたCIAが対テロ戦争の混乱で化け物のように軍をしのぎ、国をゆがませていく姿に言葉を失う。〈生井英考〉

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