超私的「京都本」特集

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「台湾男子がこっそり教える! 秘密の京都スポットガイド」(エクスナレッジ 1600円+税)

 観光地として、国内外から絶大な人気を集める街・京都。ガイドブックは星の数以上にある。町並みや風景、有名店の場所もネット上でいとも簡単に検索できる。観光客の手あかにまみれてしまった京都を、まったく別の切り口で眺めてみることをお勧めしたい。名付けて「超・私的京都本」を4冊紹介しよう。

 ありきたりの著名人が書いた京都本に飽き飽きしている人に手に取ってほしいのが、「台湾男子がこっそり教える! 秘密の京都スポットガイド」(エクスナレッジ 1600円+税)である。

 著者は、Dato・奕凱・Azonaの台湾人3人組アーティストユニットだ。彼らは休日や旅をテーマに、さまざまな活動を展開している。この本は彼らが京都を旅した記録であり、記憶をつづったものだ。

 本の体裁はしゃれたテイストだが、写真は時折ピンボケ。食べ物ですらピンがきてない。

 プロからすれば「素人のブログを見ているような気分」になるのだが、実に気取らず、飾らない彼らの言動には次第に引かれてゆく。京都スポットガイドと称してはいるが、左京区への偏愛が甚だしいのもご愛嬌である。

 名店や老舗だけでなく、全国どこにでもあるチェーン店系ラーメン屋も紹介する。コンビニで買った500円以内の朝食も、スーパーで買い物をし、ホテルのポットで無理やり茹でたパスタも写真に収める。あれ、京都はどこへ行った?

 なんというか、とにかく自由なのだ。ガイドブック本はこうあるべき、という前提がない。彼らの独自性に面食らいながらも、「京都人が紹介してほしい京都らしさ」をちゃんと紹介しているのである。

 ホホホ座(前・ガケ書房)や恵文社、誠光社など、個性とセンスが光るインディーズ個人経営書店は、確かに京都ならではのスポットであり、京都人の誇りと言ってもいい。東京人の憧れと言ってもいい。台湾人にもぐっと掴まれる何かがあるのだと思うと鼻が高い。彼らは個人雑貨店「ちせ」や「小さい部屋」へも立ち寄る。個人経営の居心地のよさそうなカフェ数軒に、なぜか京都造形芸術大学、銭湯にも足を延ばし、コロッケとドーナツを買って、鴨川べりでピクニックもする。それもそのはず、この旅のコンセプトは「左京区に暮らす体験」なのだ。短期滞在ではあるが、暮らしの中の小さなことを丁寧に拾っていく、彼らの感覚が一冊になっている。

 この本のテイストはかなり若めで、戸惑う人が多いかもしれない。でも、新しい。古都・京都をまったく違う角度から見ることができる。

 もちろん、名所旧跡や観光地にも彼らは足を運んでいる。哲学の道、百万遍さんの手作り市、比叡山に貴船鞍馬。言葉が通じないときも笑顔でコミュニケーション、心は通じていたと記している。旅自体はこっそりでも秘密でもないのだが、確実に心温まる内容である。

「行くなら京都」というよりも「住むなら京都」と教えてくれる本である。

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