「真実の航跡」伊東潤著
1944年3月、大日本帝国海軍の巡洋艦「久慈」はインド洋を航行中のイギリス商船「ダートマス号」を撃沈。生存者を救助した後バタビアへ上陸。その後シンガポールへ向かう途中でインド人20人を含む69人の捕虜を洋上で殺害した。
敗戦後、この事件の首謀者として第16艦隊司令官・五十嵐と久慈艦長の乾が戦犯として起訴され、香港に収監。この戦犯裁判の被告弁護にあたることになったのが弁護士の鮫島と河合だ。鮫島は五十嵐、河合は乾を担当することになるが、五十嵐の弁護をすることは同時に乾の責任を追及することになり、鮫島と河合は一種の敵対関係に陥ってしまう。
事件を調べていくうちに捕虜虐殺に至ったのは乾の暴走によるものだと判明。鮫島は五十嵐の無罪を確信するが、五十嵐は帝国軍人としての責任から極刑を受け入れようとする。検事側の英国では五十嵐の極刑は既定事実であり覆せないのだから乾を追及するのは無駄だとする声が多い中、鮫島はあくまでも「法の正義」を貫こうとする……。
実際のビハール号事件をもとに、BC級戦犯裁判の実態と、法における真実とは何かを鋭く描いた渾身の歴史小説。
(集英社 1800円+税)