「変わる廃墟展公認!変わる廃墟写真集」BACON監修
オリンピック招致後に、スクラップ&ビルドを繰り返してきた東京の街は、いよいよ本番を間近にして急速にその姿を変えつつある。一方で、日本全国には空き家が840万戸以上、住宅総数の13%以上になるほど増えているという現実がある。
流通から漏れた建物が解体されずにいつまでも残り、不法投棄でごみ屋敷化したり、倒壊するなど廃墟化して、社会問題となりつつある。
大方の人が廃墟と聞くと負のイメージを抱くが、こうした廃墟に独自の美を見いだす写真家たちもいる。本書は、そんな第一線で活躍するアーティスト15人の廃墟写真を編んだ作品集だ。
工事の途中で放棄された地下鉄だろうか、並行してうがたれた巨大なコンクリートの横穴、もともとは何であったのか分からない天井の丸い穴、博物館なのだろうかクジラと思われる巨大な動物の骨格標本が支えを失い床に転がる部屋、そしてすべての装飾が消滅してあらわになった複雑な木組みが幾何学的なリズムをつくり出している果てしなく長い廊下など。いつしかここだけ時間が止まり、静謐な空気が凝縮したような空間の写真が並ぶ。
写真には作者も撮影地も、一切の情報がなく、ただ見入っていると、いつしか自分の時間も止まり、自らも廃墟の中に取り込まれた気分になってくる。シャンデリアが吊るされた宮殿のような建物の内部の壁紙が、かすかに差し込む日の光に照らされて、往時の華やかな室内の様子をひとときよみがえらせる。
しかし、植物に侵食され床が野原のように草に覆われた建物や、竹林にのみ込まれ一体化してしまった建物など、もうすでに建物としての原形をとどめず、別の何かになりかけている廃墟も多い。
ビーナスの誕生を連想させる巨大な貝殻を模した回転ベッドを備えたラブホテルと思われる室内があるかとおもえば、教会や神社など現役時代は聖と俗に分かれていたものが、ここでは混然と廃墟というくくりの中でカメラに切り取られる。
確かに、すべては人間がつくりだしたものなのだが、風雪にさらされ、その場所で起きたことのすべてを忘れたかのように時間だけが積み重なる空間は、世俗の人間との関係を絶って、静かに存在するだけの清浄な世界へと変わりつつある。
他にも病院や体育館、学校、果ては遊園地まで、人々にその存在を忘れられ、ただ朽ちていくだけの建物たちだが、撮影者たちの手にかかると、手術室の巨大な無影灯や体育館の規則正しく並んだ窓枠、学校の教室に置かれた一組の机と椅子、遊園地のスクリューコースターのらせんなど、廃墟の中でそこだけが生気が通うアートなオブジェに見えてくる。
今もこの広い世界のどこかで、人の目に触れることなく静かに朽ちていっている廃墟たちの写真を目にして、あなたは何を感じるだろうか。
(KADOKAWA 1900円+税)