「農業男子とマドモアゼルイチゴと恋の実らせ方」甘沢林檎著

公開日: 更新日:

 1985年に542万人いた農業就業人口は、30年間で6割減り200万人割れ目前で、そのうち65歳以上が64%を占める(2015年調べ)。こうした高齢化と後継者不足に歯止めをかけるため、近年盛んになっているのが「農業婚活」だ。農業体験を通して、農家の男性と農家に嫁ぎたい女性とのマッチングを目的とした婚活イベントで、本書もそうした婚活ツアーが物語の発端となっている。

【あらすじ】30歳を目前にした早瀬恵里菜は、結婚するはずの彼氏から突然、別れを告げられる。おまけに、派遣社員として働いていた会社から契約解除を申し渡される。途方に暮れている目に飛び込んできたのが婚活サイトの広告だ。都会に住んでいる女性で田舎暮らしに憧れている人が対象。行く先は長野県の長依田町で、地元の特産品も振る舞われるという。

 どうせ暇だし、旅行がてらにと申し込んでみた。見合い自体は期待していなかったが、こんな田舎にと驚くほどのイケメンがいた。名前は吉川優真、26歳、大卒で農業経営とある。舞い上がった恵里菜は「農業っていいですよね。スローライフって感じで」というと、男から「農業舐めてんの?」と怒られてしまう。この言葉が突き刺さった恵里菜は、見返してやろうと長依田町へ移住して農業をやることを決意。とはいえ、農業はずぶの素人。誰かに教えてもらわなければならない。町役場で紹介された農業指導者はなんと優真だった……。

【読みどころ】恵里菜と優真の恋の行方に絡めながら、農業を始めるのに最低限何が必要で、どのような作物を選べばいいのか、畝作り、播種といった農作業の具体的な過程も懇切に描かれ、農業の大変さと楽しさが同時に伝わってくる。<石>

(KADOKAWA 620円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    スッカラカンになって帰国のはずが…ラスベガスのカジノで勝った

    スッカラカンになって帰国のはずが…ラスベガスのカジノで勝った会員限定記事

  2. 2
    ミス・インターナショナル 特派員協会で「涙の訴え」のワケ

    ミス・インターナショナル 特派員協会で「涙の訴え」のワケ

  3. 3
    なぜ15大会のスポンサー企業は日本女子プロゴルフ協会に“抗議文”を送ったのか

    なぜ15大会のスポンサー企業は日本女子プロゴルフ協会に“抗議文”を送ったのか

  4. 4
    宮迫博之の地上波復帰また遠のく…チバテレ番組ゲスト出演のはずが、収録済みでもソデに

    宮迫博之の地上波復帰また遠のく…チバテレ番組ゲスト出演のはずが、収録済みでもソデに

  5. 5
    巨人阿部監督を悩ます原前監督の尻拭い…FA組と主力の過渡期でよぎる高橋由伸政権時の再来

    巨人阿部監督を悩ます原前監督の尻拭い…FA組と主力の過渡期でよぎる高橋由伸政権時の再来

  1. 6
    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  2. 7
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8
    プロアマを“人質”にした協会の傲慢ぶりで伝統ある大会が消滅危機…3年前から続く対立構造の根本

    プロアマを“人質”にした協会の傲慢ぶりで伝統ある大会が消滅危機…3年前から続く対立構造の根本

  4. 9
    だれもが首をひねった 演技派俳優・古尾谷雅人の自殺の謎

    だれもが首をひねった 演技派俳優・古尾谷雅人の自殺の謎

  5. 10
    渡部建はキスなし即ベッド“超自己中SEX” 元カノ女優が激白

    渡部建はキスなし即ベッド“超自己中SEX” 元カノ女優が激白