「真実の航跡」伊東潤著
昭和22年6月、大阪弁護士会所属の鮫島らは、復員庁の依頼を受け、香港に向かう。英軍管轄下で行われる戦犯裁判の被告人弁護を務めるためだ。鮫島と先輩の河合は「ダートマス・ケース」の担当を命じられる。
記録を読むと、昭和19年、インド洋上で日本軍の航空巡洋艦「久慈」が輸送船「ダートマス号」を撃沈。その際に捕虜にした69人のイギリス人とインド人を殺害した容疑で、久慈の乾艦長と作戦を指揮した第十六戦隊司令官の五十嵐海軍中将が起訴されていた。
記録では乾艦長は司令部の指示を待たずに拿捕(だほ)が目的だった輸送船を独断で撃沈。鮫島は、洋上で救出した捕虜をジャワ島に連れ帰った後、何が起きたのか接見した五十嵐に聞き出す。
戦犯裁判を舞台に描く歴史長編。
(集英社 880円)