「やくみつるのエキセントリック・ジャーニー」やくみつる氏

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「やくみつるのエキセントリック・ジャーニー」やくみつる著

 さまざまな土地を旅行しても、時間が経つと「あれ? どこに行って、何をしてきたっけ……」。せっかくの思い出が頭からすっかり抜け落ちてしまうという読者もいるのではないだろうか。

「子どもの頃に誰しも切手コレクションやガラクタ集めをしたことがあると思います。私はその延長線で、旅行に行ったらとにかくたくさんのお土産を買うんです。例えば、パプアニューギニアの工芸品店で買ったのは、民族男性のペニスケースである『コテガ』。ヒョウタンをくりぬき、乾燥させて作った民族衣装のようなものです。小学生のときに読み耽った本に出てきた記憶が蘇り、大はしゃぎして大きいものを選んだことが思い出されます。収集をすると物品に記憶がこびりつき、家に飾ると、まるで記憶の羊水に漬かっているようで、とても心地いいんです」

 本書は、辺境マニアである著書が、2004年までに訪れたセネガルやアイスランドなど40カ国で手に入れた、珍品コレクション旅行記。各国でのエピソードと共にトイレットペーパーやカバの置物コレクションなど240点の写真と、思い出の一場面をユーモラスに描くイラストが収録される。

「家には本書に掲載した10倍、2000点以上のお土産があって、もはやゴミ屋敷です(笑)。その中でも紙幣は、その国の特徴がよく表れて面白い。マダガスカルの旧紙幣は、特産のオナガヤママユという蛾とキツネザルの仲間が5匹描かれているんですが、これは1960年までフランスの占領下で、紙幣の顔になるような過去の偉人がいないからなんです。また、豊富な野生動物が観光資源になる南アフリカの6代目の紙幣はライオンやバファローなどがデザインされています。日本でいったら、お札に秋田犬が描かれているようなイメージでしょうか」

大都市からアマゾンまでベネズエラはまるで巨大テーマパーク

 コレクションは思い出の保存、そして雑学の源泉にもなり、一石二鳥だという。著者は30年以上の経験を持つベテラン旅行家だが、海外デビューは意外にも30歳のときと遅かった。

「座学で地理には関心はあったのですが、語学がままならないのでためらっていたんです。同じような理由で敬遠している方には、旅行会社ツアーがおすすめです。ツアーは旅先での自由が利かないと思われがちですが、そんなことはない。これだけの爆買いをできる時間があるくらいですからね。私のような辺境好きには昆虫専門誌の『むし社』のような小さな会社のツアーがいいんじゃないでしょうか。また、良くも悪くも個人旅行では体験できない同行者との時間も味わいのひとつです」

 実際に、本書で取り上げられるほとんどの国は、ツアーで訪れたという。

 また、妻と2人での旅行が多いという点もやく流トラベルの特徴。夫婦円満の秘訣はどこにあるのだろうか。

「教育ですかね(笑)。新婚旅行は私の独断でボリビアに行きました。大きな青い翅を持つモルフォチョウが目当てだったので、旅行前までに近くの山林で虫に慣れさせました。現地では、嫁がチョウを誘導して私がネットイン。初めての共同作業となりました。海外旅行初心者が夫婦で行くなら、ベネズエラがおすすめです。国土が広いので基本ヘリや飛行機で移動するのですが、大都市からビーチリゾート、かと思えばアマゾンの密林も見られる。一つの国が巨大なテーマパークのようなんです。しかし、大都市のカラカスは治安が非常に悪いので、やはりツアーがいいでしょう」 (帝国書院 1980円)

▽やくみつる 1959年生まれ。漫画家。大相撲、野球、漢字などについての該博な知識を生かしたマンガ作品や著書が多い。著書に「雑学の威力」「やくみつるの小言・大言」「やくみつるの昆虫図鑑」ほかがある。


【連載】著者インタビュー

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