民主主義危機一髪!

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「民主主義を装う権威主義」東島雅昌著

 世界を覆う専制政治の嵐。はたして民主主義は持ちこたえるのか。



「民主主義を装う権威主義」東島雅昌著

 なにより題名が目を引く。自称「民主主義国」の独裁制・専制政治の国は少なくない。中国などは「アメリカ型のデモクラシーだけが唯一ではない」として「もうひとつの民主主義」を名乗るほどだ。こんな趨勢にタイミングよく切り込んだ40代になりたての東大准教授。はたして日経、サントリーなどの学術賞をいくつも受賞したのが本書だ。

 冒頭、「自由民主主義に基づく政治は、今まさに歴史上の大きな岐路にある」と宣言。先進国を自任してきた欧米は経済格差と政治不信に悩む。その実態と途上国の政治指導者たちの強権的手法を比較し、歴史的な過程と現状を精緻に分析する。

 比較政治学を専門とするだけに議論は複雑ながらも明快。公正な選挙や選挙権の確保、選ばれた首長の責任の所在など4条件を民主主義の特徴とし、そのどれがどのように欠けているかで権威主義を分類する。たとえば中国とサウジアラビアは、共産党か王政かの違いはあっても、国政選挙を定期的に実施していない点で同じ。これは「選挙なし独裁制」と定義される。

 もとは英語で書かれたという専門書だが、関心さえあれば素人でも読み通すことができるわかりやすさだ。

(千倉書房 6160円)

「民主主義の人類史」D・スタサヴェージ著 立木勝訳

「民主主義の人類史」D・スタサヴェージ著 立木勝訳

「民主主義は最悪の制度だ。他に試みられたあらゆる形態を除けば」というチャーチルのことばは有名だが、実は民主主義にもいろいろある。人類の歴史に沿って民主主義はさまざまな形態をとってきたのだ。そんな議論を展開する著者はニューヨーク大学の政治史家。その議論が面白い。

 著者は民主主義が古代ギリシャに始まったという常識をくつがえす。多くの探検家や宣教師や民俗学者が世界各地の部族社会や共同体に民主主義を見いだした例を挙げる。それら「初期デモクラシー」が近代のものと違う最大の点は官僚制の有無。社会の規模の違いもある。それが中世になると中国でも中東でもオートクラシー(専制政治)に取って代わられる。

 ではなぜヨーロッパは違っていたのか。わけても欧州大陸と異なり、イングランドで発達した代議制デモクラシーが、その後、アメリカをふくむ世界各地に広まっていったのはどうしてなのか。

 観念的な政治学の議論はなく、歴史的な実例がていねいにわかりやすく説明されるので、大人の読者なら専門家でなくともうなずける指摘が多い。

(みすず書房 5500円)

「民主主義へのオデッセイ」山口二郎著

「民主主義へのオデッセイ」山口二郎著

 政治論壇では長年一貫してリベラルの論客として活躍する著者。机上の議論に明け暮れる学者も多い中、自民党に対抗する恒久的な政治勢力を構築しようと奮闘してきた。本書はその回想録。

 始まりは中曽根康弘内閣が300を超える衆院自民勢力をバックに権勢をふるった1987年。その年に米国に旅立った著者は留学中に昭和天皇崩御を経験し、ニューヨーク・タイムズに天皇批判の論文を寄稿。

 2年後に戻った直後には土井たか子委員長率いる社会党が、参院選挙で自民党を過半数割れに追い込む。「山が動いた」の名言の残ったあの選挙だ。

 その後、自民党への対抗勢力の構築に関わった著者は、民主党政権の誕生に期待を寄せるものの、鳩山内閣は沖縄基地問題、菅内閣は3.11東日本大震災でしりぞくことになる。

 その後、自民は復活し、安倍内閣では史上最長の政権保持となった。その間の喜怒哀楽も率直に記される。

 若手論客として鳴らした著者だけに、60代後半に達してふりかえる日本政治の現代史には余人の追随を許さないものがある。

(岩波書店 3410円)

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