野地秩嘉
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野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第13回>迫真の演技だったビートたけしの“シャブ中”

公開日: 更新日:

 見どころはふたつある。ひとつはビートたけしにそそのかされて、覚醒剤の売買に手を染めた小林稔侍を殴るシーン。高倉健本人はこう語った。

「『夜叉』って映画の中で、僕が元の子分だった稔侍を殴るシーンがあって、そこであいつがほんとにいい芝居をしてくれました。こっちも体がカーッて熱くなって、台本にはなかったけれど、思わずポケットから白いハンカチ出して、唇の血を拭けって……。芝居がそんな展開になっちゃって、そこをまたカメラの大ちゃん(木村大作)がピシッといい絵で撮ってる。でも、それも、一人が一方的に気を発しただけじゃ駄目なんです。役者もスタッフも含めて気を発した同士がぶつかって火花が飛ばなきゃ」

 もうひとつの、気が出ているシーンは奈良岡朋子扮する昔の親分の奥さん、つまり、ミナミの姉御に会いに行ったところ。

 蛍子のヒモであるビートたけしを救うために姉御を訪ねるのだが、そこで感極まった高倉健は本来、しゃべるはずのセリフが出てこなかった。ただし、高倉健に対して、「早くしゃべれ」とは誰も言えない。さらに、セリフがなくとも、主人公が姉御に対して感じている畏れや敬いの気持ちは十分に伝わってくる。そこで、監督は「OK」を出したのである。

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