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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

おでん屋でコップ酒は演出…一滴も飲めなかった古関裕而

公開日: 更新日:

 しかし、その頃は昭和恐慌が吹き荒れ、東京では失業者があふれていた。印刷屋などでアルバイトをして食いつないでいた野村は、難しい調理技術がそれほど必要なく、障壁の低そうなおでん屋に目をつけ、始めることにした。東京下町の入谷で「太平楽」という店を開いたのである。

 江戸時代の後期の江戸では、酒も飲ますおでんの屋台が大流行していた。当時のおでんは具材を醤油、みりん、砂糖、鰹節などで甘辛く煮つけたもので、汁は少なかった。明治に入って、たっぷりのダシで煮る今の形になった。依然としておでん屋の人気は高かったが、関東大震災が起こると、大半の店は潰れてしまった。そうして競争相手が少なかったという背景もあり、ずぶの素人の野村でも、おでん屋を始めることができたのだ。

 ドラマのおでん屋のシーンで明らかに、現実と違っているところが一点だけある。古山裕一がコップ酒を飲んでいるのだが、これはありえない。本物の古関裕而はアルコール類がまったく飲めなかったのだ。妻・金子は女性誌(「主婦と生活」1953年12月号)の中で次のように語っている。

「お酒は一滴も飲めません。奈良づけを食べても酔っぱらい、隣席の人が飲んでいるウイスキー紅茶にも頭がふらっとなるといった極端さです」

 酒が飲めない古関は大の甘党。戦後ようやく、菓子類が出回るようになると、そうしたものを出す店に毎日、何度も通ったという。

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