アナタが麻疹を流行国から持ち帰るリスク GWの海外旅行は要注意…どんな人が危ない?

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自然感染の減少とワクチン接種の盲点

 それにしても、小児のイメージが強い感染症の麻疹で、なぜ成人が危ないのか。対策を含めて富家氏に聞いた。

「麻疹はワクチンをきちんと接種していれば、確実に予防できます。2000年以降は、ワクチンの2回接種が推奨されていますが、それ以前は任意接種だったり、1回接種だったりするため接種状況にバラつきがある。成人の中には、ワクチン接種をしていなかったり、していても不十分だったりする人がいて、感染しやすいのです」

 1回接種がスタートしたのは1972年10月1日生まれから。同年9月30日以前に生まれた人はワクチン接種がなかったが、当時は麻疹の全国的な広がりから自然に感染することが多く、それで免疫を獲得している可能性が高いという。

 1回接種の期間は、90年4月1日生まれまで続き、同年4月2日生まれから2000年4月1日生まれまでは1回または2回に。00年4月2日生まれから2回接種になったという経緯がある。

「現在は麻疹ワクチンが2回接種になっているものの、あくまでも推奨であって、強制ではありません。親の判断やいろいろな事情で接種をしていなかったり、1回で済ませたりしている方も少なくないでしょう。その一方で、ワクチン接種が進み、自然に感染することで免疫を獲得する方は減少傾向で、ここ10年の感染規模では自然感染による免疫獲得はかなりレアケース。そうすると、ワクチン接種が不十分で、かつ自然に感染していない若い成人の方が危ない可能性もあります」

 実は07年から08年にかけて麻疹が流行した。その中心となったのは10代や20代だ。

 当時の状況を分析した国立感染症研究所感染症情報センターの岡部信彦センター長(当時)は、07年に発行された日本ウイルス学会誌「ウイルス第57巻 第2号」にこう記している。

「10~20代の患者は、ワクチン未接種者と1回既接種者が混在している」 その内訳は、以下の通りだ。

①麻疹ワクチン未接種で未罹患者(約10%)

②麻疹ワクチン接種したが免疫獲得ができなかったもの(2~3%)

③麻疹ワクチンによる免疫が減衰したもの(約10%)

 前述した東大阪市の男性による輸入感染から広がった患者も、やはり20代が中心だ。自然感染が少なくなった世代だけに、ワクチンの効果が甘いと感染リスクが高いことを示している。

 岡部氏の報告によると、07年の麻疹流行時は60代の再感染例もあったという。自然感染で獲得した免疫も、長い年月を経て弱まっている恐れもあるだろう。

 WHOは今年1月、23年に報告された欧州での麻疹の感染者数が、対前年比40倍以上に拡大したと発表。そのうち、3分の1近くはカザフスタンで、イギリスでも再流行している。

 アジアでは、インドやインドネシア、中国、フィリピンなど人気観光地を抱える国でも麻疹が広がる。アフリカや中東も例外ではない。麻疹の免疫が不十分な人が海外に出かけるのは、要注意だろう。

「特効薬はなく、ワクチン接種が予防の要。麻疹の抗体検査を受けて、数値が十分でない方はワクチンを接種するのが無難です。60代の再感染例も指摘されているように、ワクチンを2回接種した方や感染歴がある方も油断せず、旅行中は免疫を弱めるような行動を慎むこと。具体的には睡眠や栄養をしっかりとって、むちゃな行動をしないことです」

 麻疹に感染して重症化すると、肺炎や脳炎を起こして命を落とすこともある。妊婦が感染すると、流産や死産のリスクが高くなる。さらに、治癒後最大10年程度を経て、亜急性硬化性全脳炎という難病を発症することもある。「麻疹なんて」と軽い考えは禁物だ。

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