元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<2>ベトナムでは14階建てのマンションで軟禁生活を強いられた

公開日: 更新日:

「ベトナムで引退も考えた」という元日本代表・松井大輔(YSCC横浜)。

 しかし、2020年12月に加入したサイゴンFCでは、わずか7試合に出場しただけで長いロックダウンに突入してしまった。その厳しさというのは、日本の緊急事態宣言の比ではない。社会主義国のベトナムでは凄まじい監視体制が敷かれ、マンション周辺にはバリケードが立てられ、外出は一切許されなかった。

 違反者には最大1万5000円の罰金。軟禁生活は90日に及んで「人間らしさが失われていくのを感じました」と彼はしみじみと語った。

 ◇  ◇  ◇

 松井が3年間過ごした横浜FCを退団し、ベトナム・ホーチミンに渡ったのは昨年の12月11日。 最初の14日間の隔離の辛さが身に染みた。

「空気感染を防ぐために窓の開かない部屋に14日間、押し込められてドアを開けられるのは、食事が運ばれてくる時だけ。その頃は朝からベトナム語の勉強をして昼飯を食べ、筋トレとバイクを漕いで有酸素運動をしてからアイスバスをに入るーーという流れで日中を過ごしました。夕飯後はドラマ映画を見たりしていたけど2週間で体重が3キロ減った。体の線がみるみる細くなっていくのが分かりましたね」

 そこから2週間で体を作って1月17日のデビュー戦を迎えたが、コロナ感染者が増加して3月末までリーグが2カ月間の中断。再開後は5月2日まで5試合に出場。

「ようやくこれからだ」と士気が上がりかけた時に活動休止状態に陥った。

「最初のうちは散歩もOKで買い物券も配られ、1週間に1回は気晴らしにショッピングにも行けました。マンションの周りにはバリケードが立てられていたけど、その合間をバイクがすり抜けていく様子も見られました。でも、6月にデルタ変異株の感染者が見つかってからは、凄まじい状況になりました。僕も強制的にワクチンを打たされ、家の中に押し込められた。それが長い長い自宅隔離生活の始まりでした」と松井は苦笑する。

ロックダウンが延びる度、体重が減って…

 新型コロナが猛威をふるった欧州各国では、ロックダウンが頻繁に行われたが、日本の緊急事態宣言はあくまで自主規制である。

 さすがに遠出ははばかられたが、買い物や散歩などは問題なく行けた。そんな日本人が引きこもり状態を強いられたら一体、どうなるのか……その大変さを彼は身を持って実感することになった。

「欧米人は長期バカンスを取ってのんびりしたりすることに慣れているけど、勤勉で仕事熱心の日本人は何かをしていないと落ち着かない。そういう人々が一歩も外に出られなくなったら、精神的におかしくなるんだと心底、痛感しましたね。僕も最初はユーチューブを見たりしていたけど、そういうのも1週間で飽きる。食事は軍人が届けてくれましたけど、ただ食べて寝るだけでは体もダメになる。そう思って高崎(寛之=甲府)ら同じマンションに住むチームメートと一緒に非常階段を上り下りしたり、屋上で筋トレをするようになりました。建物は14階建て。それを3~4往復するのが日課になり、毎日1時間半くらいやりましたけど30日、60日、90日とロックダウンが延長されるたびに筋肉が落ち、メンタルもやられていきましたね」

 少しくらい敷地外に出て、新鮮な空気を吸っても良さそうなものだが、社会主義国のベトナムの徹底ぶりは、日本人の想像をはるかに越えるレベル。

 町の至るところに監視カメラが設置され、エレベーター乗り場の横には見張りの警察官が立っていた。携帯電話にはGPSがダウンロードされ、家から出ていないか、厳しくチェックされる。

 不用意な行動は取れなかったのである。

「6月まではコロナ感染者の実名がホームページにアップされていました。『絶対にかかったらまずい』と誰もが思ったことでしょう。デルタ変異株が流行した7月以降は一日当たりの感染者が1000人を突破し、さすがに全員を追跡することができなくなりましたけど、『ここまでやるのか』と驚いた。やはり社会主義国なんだと再認識させられました」

 八方ふさがりの異国で松井は孤独を感じつつも、何とか希望を見出そうともがき続けた。(つづく)

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