元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

<4>オマーン下しB組2位に! 森保監督は会見後、現地取材日本人記者6人全員とグータッチ

公開日: 更新日:

大一番には定石通りの采配で

 勝ち点3以外は許されない16日のオマーン戦(マスカット)。森保一監督は11日のベトナム戦(ハノイ)から、出場停止の守田英正(サンタクララ)に代えて柴崎岳(レガネス)を起用しただけ。「勝っている時はチームを変えない」という定石通りの采配で大一番に挑んだ。

 前半は相手を攻略しきれず、9月の大阪での敗戦が脳裏をよぎるような展開だった。が、後半から三笘薫(サンジロワーズ)を投入。そこで流れがガラリと変わり、最後は伊東純也(ゲンク)が決勝弾。森保采配的中で日本はグループB組の2位に浮上した。

 決戦の朝。マスカットはこの日も快晴だった。日中はやはり30度近い暑さだったが、試合開始の午後8時は気温24度・湿度53%という気象条件。9年前に35度以上の猛暑を経験している長友佑都(FC東京)や吉田麻也(サンプドリア)らは安堵したことだろう。

PCR検査は2~3分で終了

 大一番を前に筆者にはやらなければならないことがあった。1つは帰国前のPCR検査。宿泊ホテルに近接する病院のドライブスルー検査場に行ったのだが、陰性証明を求める現地の人々が続々とやってくる。我々は窓口でパスポートを見せ、手続きを済ませると検査用キットを渡され、検査スペースに入った。

 担当者は手慣れた様子で鼻と口の奥に長い綿棒を入れて検体を摂取。ものの2~3分で全てが終了した。「結果は明日17日朝に出るのでまた来て。日本フォーマットの証明書は隣の建物で出すから」と言われた。あまりにもアッサリした流れで驚く暇もない。なぜ日本にこういった簡易検査施設ができないのか、改めて疑問を覚えたほどだ。

 続いて同国最大のモスクであるスルタン・カブース・モスクへ。ここには2004年の初訪問時に足を延ばしているのだが、17年ぶりの再訪で朧(おぼろ)げに記憶が蘇ってきた。内部はとにかく巨大かつ豪華絢爛。海外からの観光客の姿もあり、コロナ禍が終わったかのような開放感があった。人口510万人のオマーンは外国人を招く体制を整えないと経済が回らないのだろう。いち早く「ウイズ・コロナ」に舵を切っている現状が色濃く感じられた。

日本選手が登場するや否や凄まじいブーイング

 そして夕方。スルタン・カブース・スタジアムに向かった。キックオフ1時間半前はすでに周辺道路が大渋滞。観客が押し寄せていた。さらに中へ進むとバックスタンド側に陣取った大サポーターが鳴り物と歌で大合唱を繰り広げている。

 彼らは日本選手がウォーミングアップのために登場するや否や、凄まじいブーイングを浴びせる。収容50%の人数制限こそあったが、まさに完全アウェーに他ならない。最終予選特有の張り詰めた空気感の中、ビッグマッチがスタートした。

 2カ月前に負けていることもあり、日本は慎重な入りを見せた。オマーンの守りは手堅く、ボールを支配していてもなかなかゴール前に侵入できない。とりわけ停滞感が強かったのが、南野拓実(リバプール)と長友がタテ関係を形成した左サイドだ。

 オマーンが右の伊東を徹底マークしてきた分、左はフリーになれそうな感じだったが、2人の崩しが中途半端で敵陣深くに侵入できない。特に長友は持ち前の大胆さが影を潜め、精細を欠いた印象だった。

 前半は0-0。こうした戦いぶりをじっと見つめていた森保監督は後半頭からA代表デビューとなる三笘を投入。基本布陣を4-3-3から4-2-3-1へ変更し、立て直しを図った。

 次の瞬間、三笘が得意の「ヌルヌルドリブル」で敵を2枚、3枚と剥(は)がしてFKを奪取。見る者を驚かせる。これで一気に流れが変わり、さらに長友と代わった中山雄太(ズヴォレ)も良いサポートを披露。左サイドのタテ関係が活性化したことで、右サイドがフリーになる回数も増え、最終的に伊東が値千金の決勝弾を挙げるに至った。

 1-0でタイムアップの笛が鳴った瞬間、森保監督は大きく息を吐き、目の前にいた副審にグータッチ。直後に後ろから身を乗り出した日本サッカー協会の反町康治・技術委員長からグータッチを受けた。

森保監督は語気強め「人生は全て生きるか死ぬか」

 反町氏は万が一、勝ち点を取りこぼしていたら立場上、監督人事に着手せざるを得ない立場だっただけに、安堵感もひとしおだったかも知れない。

 選手、スタッフ全員で円陣を組んで「出られる選手、出られない選手も一丸となってチームのために準備してくれことがエネルギーになった」と話し、会見場にやって来た森保監督は非常に落ち着いていた。

 壇上で質疑応答を終えた後、6人の日本人記者全員とグータッチをして、感謝の言葉を口にした。

「本当に良かったです」と筆者が言葉をかけると「人生は全て生きるか死ぬかですよ」と語気を強めた。

 これはドーハの悲劇で地獄を味わった経験から口をついて出た言葉なのかもしれない。今回は死ぬ覚悟で挑んだ結果、賭けに勝った。勝負師はつねにギリギリのところで生きている。その厳しさを改めて感じさせた。そのことが、ひしひしと伝わってきた。

 とりあえず2位浮上。自身の首もカタール行きの可能性も繋がった。

 森保日本は最悪の事態を免れ、2021年を締めくくることになった。

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