岩隈久志さんがボーイズチーム創設 なぜ少年野球を?指導方針と野球界への思いを明かす

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 近鉄、楽天、マリナーズ、巨人でプレーし、2020年に現役を引退した岩隈久志氏(マリナーズ特任コーチ)が今年3月、中学生を対象としたボーイズチーム「青山東京ボーイズ」を創設。この5月から本格的に始動した。現在メンバーは二十数人。西武、楽天などで選手、コーチを務めた広橋公寿氏が監督を務め、コーチ、トレーナーを含めて6人の指導者がいる。練習時間は土曜、日曜が9~15時(埼玉・三郷市)、火曜は都内の施設で練習を行う。技術指導以外に、トレーニング指導にも時間を割き、選手が自主的に練習できる環境を整える。「お茶当番」はなく、髪形も選手の自主性に任せている。「こどもたちの野球界に、新しい風を──」と掲げる岩隈氏は、なぜ少年野球チームをつくり、どんな指導をしているのか。野球界への思いも含め、話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ──3月にチームを立ち上げ、ホームページには、「野球に関わるすべての人に幸せを感じてほしい」という言葉を上げています。

「まずは楽しくやれることが一番です。僕ら指導者も含めて、みんなで共感、リスペクトし合いながら、時間を共有できたらと思っています。もちろん、試合に勝てるのが一番いいですけど、勝つことがすべてではありません」

中学生がすべてを出し切っても仕方ない

 ──目先の勝利よりも先々の可能性を広げたいと。

「ウチとしてはそうですね。もちろん、勝利至上主義がダメだといいたいわけではありません。そういうところでうまくなる子もいるでしょう。ただ僕は、選手の可能性を潰すことが嫌だというのが根底にあります。中学生は、今すべてを出し切っても仕方がない。先が長いわけですから」

 ──野球を楽しむということでいえば、メジャーでのプレー経験が大きいですか。

「大きいですね。メジャーは結果がすべての世界。力があっても結果が出ないとクビになります。ただ、その中でも、小学校の頃のように真剣に一球一球を目で追って、勝利に向かってみんなでやっていく楽しさを思い出すことができました。日本には日本の野球があって、ベンチで笑っちゃいけないとかありますけど、結果がすべての世界であるからこそ、楽しまないといけない。(日本から)メジャーに行った選手はマイナー暮らしをしたり、結果が出なかったとしても、行ってよかった、いい経験ができたという人が多くて、行かなきゃよかったという声はあまり聞いたことがありません。では、そこに何があるのかなというと、やっぱり、野球を始めた人は楽しいから始めたんだと思う。好きで始めた野球をつまらなくなってやめるというのは、一番悲しいこと。子どもたちにはそうはなってほしくないんですよね」

 ──投内連係では、走者が動いたときに声出しを促したり、プレーがうまくいくと声に出して褒めていた。選手同士で拍手し合う場面もありました。

「野球の技術指導はもちろんですけど、挨拶とか周囲への気配りとか、社会に出てもプラスになるような人間教育的な部分を伝えられたらいいなと思いながらやっています。野球を教えるだけなら、チームをつくらなくてもやれる。子どもたちにとってここは、あくまで次のステージへのステップの場。野球だけじゃなく、普段から明るく楽しく元気にやろうと。そんなチームを目指しています」

 ──ミスした選手を怒鳴ったりすることなく、自らも選手の輪に入って実演指導するなど、野球を楽しもうという雰囲気づくりを心掛けている。

「僕が子どもの頃は、指導者が『何でボールが捕れないんだ!』『グラウンドから出てろ!』と厳しく接するのが当たり前の時代。『根性がないヤツはいらない!』というムードの中でやったこともあります。野球が楽しくなくなって、やめたいと思ったこともありましたし、素晴らしい能力があるのに、それが原因でやめていった仲間も見てきました。そうしたプレー環境が野球人口が減っているひとつの原因にもなっているんじゃないかと。そもそも野球が好きでチームに入って、うまくなりたいと思ってやっていても、指導者の声のかけ方、接し方によって、野球がつまらなくなることもたくさんあると思うんです」

「お茶当番」はなし

 ──野球にはミスがつきものです。

「今は負けたからといって指導者が『勝つために走れ!』とやらせる時代でもないですしね。勝った、負けた、うれしい、悔しいということは、やりながら感じることだと思います。打撃、守備、走塁でうまく形にできないときにどうすればいいのか。練習を止めて、個別に伝えることもあります。厳しいところは今もいっぱいあるでしょうけど、僕らが伝えて、一緒に改善して、またトライする。その繰り返しをしっかりやっていって自分から考えて動けるようになるか。技術は僕らがうまく教えるしかないのでみんながそれを吸収して、うまくなっていってくれたら本当に楽しいですよね。中学生を教えたいと思ったきっかけでもあるんですけど、野球を通じて失敗をちゃんと反省して、何が原因なのかを理解して、一つ一つ積み重ねることを中学生のときから大事にしてほしい。プロ野球選手だってエラーやミスをする。中学生だから、まだまだ失敗することもたくさんあると思うし、思春期でもあるので、正しい方向性のようなものを示せたらと思っています」

 ──チームには髪が長い選手もいますね。

「髪形は一切、規制していません。髪の毛うんぬんでうまくなるわけじゃないと思いますし、そこは彼らの自主性に任せています」

 ──お茶当番もありません。

「これは(ボーイズなど)各チームの方針がありますけど、僕自身は親御さんの負担を減らしても、野球がやれるようにしたいと。実際、お茶当番など決まり事があるから、野球をやらせたくないという人もいます。パイレーツの筒香嘉智選手も以前から発言しているように、僕自身もそういうことがなくても野球ができるということを発信できればいいし、そうした環境が変わってくればいいなと思っています」

 ──ひいては野球人口の裾野を広げると。

「そうなるといいですね。あとは野球界の発展のためにも、サッカーのように指導者の資格制度があってもいいかなと思っています。そうすることで、どんどんアマチュアのレベルも上がっていくのかなと。アマチュアのときに基礎であり形をつくることが大事で、指導者がそうした理解を持って指導ができるように、資格制度をつくった方が、よりいい方向に向かっていくんじゃないかという気がしています」

(聞き手=藤本幸宏/日刊ゲンダイ)

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