「日本の家紋とデザイン」濱田信義編著、青人社企画・構成

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 正装時に着る「紋付」などでしか目にしなくなった「家紋」だが、実は日本の文様の原点であり、日本文化の豊かさを象徴する存在でもある。

 その歴史は古く、家紋の原型ともいえる文様があらわれるのは平安時代初期。四季折々の自然などを意匠として用いる文化が貴族社会で育まれ、彼らの自然観や美意識が反映された文様が家紋となり、やがて、貴族社会での家格を表す役割を果たすようになった。

 中世、武家も家紋を用いるようになるが、その役割は戦場での敵味方の識別であり、幟(のぼり)や幕、武具、甲冑、刀剣などに家紋が用いられた。

 そして武家社会でも、家格や職階制をあらわすシンボルへとその役割は移っていく。

 元禄時代になると、庶民の名字帯刀を許さなかった幕府も家紋の自由を認め、家紋ブームが到来。衣服だけでなく、美術工芸品から生活のあらゆるモノにデザインが施され、広範囲に使用された。

 現在、家紋は基本的なものだけで二百数十種、そこから派生して同じモチーフで異なるデザインのものを合わせると5000種以上にもなるという。本書は、その代表的な家紋89種2576点を収録・解説した図鑑。

 例えば、梅をモチーフにした「梅紋」なら、梅の花をデザインした「梅花紋」と、花弁が丸形の「梅鉢紋」(北野天満宮の神紋)があり、「蕊(ずい)」のありなしや、花弁を裏側から描いた「裏梅」などを描き分け、74種もある。

 ほかにも、桜や橘など植物をモチーフにしたものから、動物や、星や雪などの自然現象、「尚武」「文様・図案」「建造物・器物」など、テーマごとに家紋を、それらが配された工芸品や絵画、着物なども交えて紹介。

 我が家の家紋について改めて学ぶ良い機会となることだろう。 (パイ インターナショナル3960円)

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