「オリンピック恐慌」岸博幸氏

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 平昌オリンピックが開催中の今、2年後の東京オリンピックに思いを馳せている人も多いことだろう。何しろ、日本経済も久方ぶりの上向き傾向にあり、関連施設建設やイベント需要のピークを迎えるこれからの2年間は、ますます景気の良い状態が続くだろう。

 しかし、現在の好景気はまやかしにすぎず、浮かれた空気に踊らされていると2020年以降は地獄を見ることになると警告するのが本書である。

 オリンピック特有の盛り上がりが終了した途端に景気が悪化するのは、各国の例でも明らか。そしてその時、日本という国は国民を決して助けてはくれないからだ。

「大手マスコミは政府が四半期ごとに発表する経済成長率、つまり今の景気を表す短期的な成長率ばかりを取り上げます。2017年4~6月の実質経済成長率は年率2.5%と非常に良い数字で、“景気回復だ”と。しかし、好景気がどれぐらい長続きするのか、将来的に収入はどうなるのかを考えるときに重要となるのは、長期的な成長率を示す『潜在成長率』の数字なんですね」

 実際、内閣府推計の潜在成長率を見てみると、年率はわずか1.0%、日銀の推計に至っては0.8%と低い。これらの数字が示すのは、日本経済は長期的に見ても1%も成長できないということ。ちなみにこの数字は、バブル崩壊後の“失われた20年”の平均の潜在成長率(0.7%)と大差ない。東京オリンピック後の日本経済は、失われた20年の再来となる可能性があるわけだ。

「日本人の人口減少ペースの加速も、経済成長にとって大きなマイナスです。さらに、2025年には団塊の世代が全員、後期高齢者になる。これは、社会保障支出が凄まじい規模で膨張するということで、その額は150兆円に達すると予測されています」

 規制改革や地方分権、自由貿易などの構造改革を進めることができれば、潜在成長率の上昇も期待できる。しかし、働き方改革を筆頭に安倍政権が行っているのはトンチンカンな改革ばかり。東京オリンピックまでの2年間は、改革を進めて日本経済を再生する最後のチャンスであるのに、政治家も官僚もメディアも2020年までしか見ていない。

年金支給額の削減や終身雇用制度の崩壊、そして人生90年時代に突入したことを考えれば、もはや国は頼りになりません。この2年で国民一人一人が来るべき危機に備え、生産性を高めるための自己防衛術を身に付ける必要があります」

 本書ではその術として、個々のスキルアップの重要性と、資産運用のポイントを説いている。

「長生きの時代=高齢になっても働く時代です。各種の支援制度をフル活用して新たなスキルを習得し、転職や起業につなげることを50代でも60代でも考える必要があります。AI時代に突入しても、ホスピタリティーやクリエーティビティーの分野では人間が有利ですから、この分野でスキルを磨くのもいいでしょう」

 資産運用では、税制優遇を活用しながら、長期・分散投資で“守りの投資”を行うのがポイントとなる。スキルアップとあわせて、あと2年あれば十分に学ぶことが可能なはずだ。さらに本書の最終章では、個々の“稼ぐ力”を低下させるスマホとPCの使い過ぎについても警鐘を鳴らしている。

「ITの聖地であるシリコンバレーでは、すでに生産性低下への防衛策としてネットアクセスに制限を設けているほどです。行動が受け身になるネットの弊害についても、日本では研究が遅れ報道も少ない。あらゆることに危機感が希薄すぎなんです」

 危機にいち早く気づき、自己防衛を始めた人だけが2020年以降を生き抜くことができると著者。あなたはどうする?

(幻冬舎 880円+税)

▽きし・ひろゆき 1962年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。2001年、竹中平蔵大臣(当時)補佐官、04年以降は政務秘書官に就任。06年経産省退官。現在は慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、エイベックス・グループ・ホールディングス顧問などを兼任。

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