「男性という孤独な存在」橘木俊詔氏

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 ここ数年、若者の結婚願望率が低下しているという。特に男性のそれが顕著で、30年前は結婚願望なしが4・5%だったのが、2015年には12%に。中でも最大の低下を示しているのが20代男性だ。

「ある調査によると、結婚を望まない20代男性がなんと6割もいるんです。結婚するのは当たり前の時代に育った世代からすれば『なんで?』と不思議に思うでしょうが、さまざまなデータを読み解くと、彼らは結婚そのものに魅力を感じていないことが浮かび上がってきたんです」

 本書は、格差論の第一人者が家族の歴史をひもときながら男性たちが置かれている状況を考察。豊富なデータを基に、多くの男性たちが陥るであろう未来を予測している。若者が結婚したがらない理由を著者はこう分析する。

「今の若者はそもそも恋愛願望も低いんですが、とにかく彼らは女性を気遣うのが面倒だ、と考えているんですね。エスコートしたり、男らしさを発揮するのはかったるい、一人や同性同士のほうが気楽だ、と。加えて性欲も低下しており異性への関心の低さが、さまざまなデータから見てとれます。その背景にあるのは、ガツガツ働かなくても生きていけるという社会環境。男女平等になり、必ずしも強い男が称賛されるわけではなくなったこと。ガムシャラに働き、女性にモテたい、と男性ホルモン全開で立ち向かっていた昭和時代とは大違いですね」

 そうした平成生まれの男性たちは、やがて二極化していくという。

 持つ者と持たざる者。前者はイロからカネまであらゆるものを兼ね備え、大多数を占める後者は恋人もなく、ただ働いて社会を下支えする“平凡な男”として孤独な人生を歩むだろうと予測する。

 そして、持つモノの中には“結婚”も含まれる。

「結婚願望のあるなしにかかわらず、平凡な男性は、結婚できなくなる時代が来るでしょうね。個人主義の浸透もさることながら、女性が社会に出て働くことが普通になり、経済力をつけたことで、男性に頼らなくても生きていけるようになりました。動物の雌が優秀な雄を求める姿と同じで、余程の魅力がないと女性から選ばれません。しかし、歴史をひもとけば男性が未婚で生涯を終わるのは普通のこと。ほとんどの男性が結婚できた明治~昭和にかけての100年間のほうが、実は異常なんです」

 明治以前の結婚は、大名や武士、商家など一部階級層が「家」を守るために活用した制度だった。一方で継承しなければならない家や職業のない庶民にとっては、結婚はしなくても困らない。特に江戸時代の未婚率は50%に達しており、未婚化・非婚化が進む現代同様、江戸時代も独身大国だったのだ。

 それが、明治になり戸籍法が施行され、一夫一婦制が明文化されたことで一変する。

「国に国民を管理する思惑があったにしろ、戸籍法は男性に思わぬ副産物を与えました。それが結婚です。また家父長制によって家長である夫と家族の間には支配―服従関係が生まれ、どんな男も家では威張れるという特権もついてきた(笑い)。結婚はするものという空気も手伝って、戦前戦後の20年間の男女ともに98%が一度は結婚する“皆婚”社会だったんです。戸籍法は、モテない男の救済措置の側面もあったんですね」

 昭和に生まれてヨカッタと胸をなで下ろす諸兄もいるだろうが、片や平成生まれの年頃の息子を持つ親たちは気が気でないだろう。

「どうしても結婚したい、させたいと思うなら家事力を身につけることは必至です。男が家庭であぐらをかいていられる時代はもう終わっています。仮に結婚できたとしても家事、子育てに参加しないと見捨てられるでしょうね。孤独を避けたいなら、法的な結婚にこだわらず、気が合ったら一緒に住んでみるという勇気も大切です」

 今や「三高」は過去の話。男の結婚は家事力がモノをいう時代になった。(PHP研究所 860円+税)

▽たちばなき・としあき 1943年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部教授、同志社大学経済学部教授などを経て現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。著書に話題となった「格差社会」「早稲田と慶応」「灘校」など多数。

【連載】著者インタビュー

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