「死者の国」ジャン=クリストフ・グランジェ著 高野優監訳 伊禮規与美訳
2段組みのポケミスで、760ページを超える長編である。これはポケミス史上最長らしいが、意外に読みやすい。それは3~5ページ刻みでどんどん場面が変わっていくからだ。これほど読みやすいミステリーも近年珍しい。主人公は、パリ警視庁犯罪捜査部第一課長のステファン・コルソ。この男が優等生の警察官でないのが、まずいい。少年時代は社会の底辺にいて、それを救ってくれたのが警察官のカトリーヌ。いまの上司だが、一時は男女の仲になったこともある。部下の女性刑事バルバラに見とれたり、敵方の女性弁護士クローディアの誘いを断らなかったり、そのくせミス・ペレーという恋人もいたりする。短気で独断専行で、けっして褒められた警察官ではないが、そこがまたいい。
パリの路地裏でストリッパーの残忍な死体が発見されるのが事件の発端で、その猟奇殺人の裏に潜む真実を、コルソは調べていくのだが、物語の半分を過ぎたところから始まる裁判劇が、めっぽう読ませる。
事件そのものが陰湿で、さらには度を越えたSM趣味や、死体愛好など、個人的には近寄りたくない光景が多いので、あまりおすすめするのもなあと思っていると、あのラストにぶち当たる。ここで完全にノックアウト。
そういえば、なにかヘンだなあと思っていたのだが、このラストで呆然、そして納得。不気味な話は好きではないが、秀逸な構成と深い余韻が素晴らしい。
(早川書房 3000円+税)