「衛艦あおぎり艦長 早乙女碧」時武里帆著
知らない世界というのは、ホント、面白い。ここで描かれるのは、海上自衛隊の護衛艦である。船の上で自衛官たちはどう過ごしているのか。それを具体的に、克明に描いていくのである。
著者は、元海上自衛官だ。つまり著者にとっては熟知した世界なのだ。全編に緊迫する臨場感が漂っているのもそのためだろう。
出入港時には艦長も操艦するとは知らなかった。この艦長操艦が艦長としての腕の見せどころらしい。本書の主人公は、早乙女碧。一般大学を卒業してから海上自衛隊幹部候補生学校に入学。若き日に同じ自衛官と恋をして結婚、長男を出産した経緯は回想で語られる(長男もいまでは自衛官だ)。現在44歳。護衛艦あおぎりの新艦長として赴任するところから、この物語は始まっていく。
もちろん、護衛艦の内部の様子を描くだけの小説ではない。出港の直前、1人の乗員が帰艦していないことが判明するのだ。周囲の注目が集まる中で、新艦長・早乙女碧がどういう決断をするのか、それが本書の最大の読みどころ。
本書のラストでは新たな人物が登場して、こんなキャラで大丈夫かと今後の展開に期待が高まっていく。
そうなのである。すでに第2巻が発売になっていることから明らかなように、シリーズとなっていくのだ。
「艦長操艦」と重々しく告げるところで本書は幕を閉じるが、さあ、出港である。
(新潮文庫 649円)