「嵐の地平」 C・J・ボックス著 野口百合子訳
猟区管理官ジョー・ピケットを主人公にするシリーズの最新作だが、これまでの作品を未読で、初めて読む方でも大丈夫。たとえば今回は、ジョーの次女エイプリルが激しく殴打されて意識不明で発見されるところから始まるのだが、このエイプリルがジョーの養女となったいきさつその他は、本文で紹介されるのである。書かれていないことは、特に知る必要もないのだ、と解されたい。
ネイトという男が登場して、大ピンチに陥るが、この鷹匠がジョーとどういう関係なのかは、1980年代に、ロバート・B・パーカーのハードボイルド小説を読んでいた方なら、スペンサーとホークの関係を思い浮かべれば興趣が増すだろう。しかし、それを知らなくても全然かまわない。親友、盟友と思えばそれだけでいい。
アクションが素晴らしい。イラク戦争のために造られたMRAP(装輪装甲車両)がものすごい轟音とともに現れるシーンから(おいおい、こんなところに来るのかよ、誰が呼んだんだよと驚く)、地下に閉じ込められたヒロインの必死の脱出行、さらにはエイプリルを救う謎の男の出現、そしてジョーの獅子奮迅の活躍まで、息つく間もなく展開するのだ。その怒涛の勢いが迫力満点だ。切れ味鋭いアクションが鮮やかである。
これが面白ければ、過去のどの作品でもいいから読んでいただきたいが、個人的なおすすめは「狼の領域」。すごいぞこれ。
(東京創元社 1386円)