「世界の美しい橋」 デイヴィッド・ロス著 秋山絵里菜訳

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 古代から現代まで、世界中で無数に架けられてきた橋の中から、造形美にすぐれた橋や歴史のロマンにあふれる橋などを選りすぐり、紹介する大判豪華写真集。

 冒頭に登場するのはイタリア・ローマに現存する最も古い石造アーチ橋「ファブリキウス橋」。なんと、造られたのは紀元前62年。

 長さ62メートル、幅5.5メートルの橋の表面は、もともとは大理石で仕上げられていたが、1679年にレンガに置き換えられたという。古びてはいるが、2000年以上も使われてきたとは信じられないほど、今も人々が往来する現役の橋だ。

 切り出した石を積み上げ、互いの圧縮力で支えるアーチ構造の起源は古代オリエントにさかのぼるが、ギリシャ人はあまりその技術を利用せず、発展させたのはローマ人だった。

 そのローマ皇帝・トラヤヌス帝統治下で建造された「アルカンタラ橋」や「ミラグロス水道橋」(共にスペイン)など以降、時代を追って紹介。

 トルコ・イスタンブールで4世紀に造られた「ヴァレンス水道橋」にいたっては、幹線道路を横切り、橋脚の間を車やバスが通過。歴史が現代の風景に溶け込み、なんとも不思議な光景をつくり出している。

 イングランド・リンカン、ウィザム川に1160年ごろに架けられた「ハイブリッジ」は、今も橋の上に建物が残るイギリスで最古の橋。建設当初、建物は魚市場として使われていたそうだ。

 イラン・エスファハーンのザーヤンデルード川に架かる1602年完成の「スィー・オ・セ橋」は、ライトアップされると33個のアーチと上に舗道が敷かれた上層のアーケードがつくり出す幾何学的な模様でまるで現代建築のようだ。

 一方、同じく17世紀に造られたイエメンの石橋「シャハラ橋」は、長さわずか20メートルたらずの素朴な石橋だが、海抜2600メートルの山地に深さ200メートルの谷をまたぐように造られており、橋の両端は断崖に張り付くような小道。このような場所に橋を架けた先人たちの苦労がしのばれる。

 ほとんどの橋は石や木などの自然の建材で造られてきたが、18世紀終わりには鉄材だけで建てた橋が登場。イングランドの「アイアン・ブリッジ」はその名の通り、1779年に建造された世界最古の鉄橋だ。

 素材や技術の開発で自由を得た設計者たちは、次々に新しい橋を生み出していく。

 21世紀になるとヒトのDNAを模した二重らせん構造の「ヘリックス・ブリッジ」(シンガポール)や、湾曲したアーチから伸びるケーブルが独特のリズムをつくり出すアメリカ・ダラスの斜張橋「マーガレット・ハント・ヒル橋」など、構造と機能を備えながら「アート」になっている橋が続々と生まれている。

 錦帯橋から東京ゲートブリッジまで、日本の橋も多数収録され、古今東西の150橋を「展示」する、さながら橋の博物館のような一冊だ。

(原書房 4950円)

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