人生のガイドブック 名著を読み解く本特集

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「扉をひらく哲学」中島隆博、梶原三恵子ほか編著

 店頭でもネットでも無数の本が並び、かえってどの本を読めばいいのか分からなくなってしまう……。それもそのはず、年間7万点余りが出版されているのだから仕方ない。そんなときこそ、立ち返りたいのが名著だろう。そこで今回は、児童書から哲学書までの名著を読み解く5冊をご紹介。



「扉をひらく哲学」中島隆博、梶原三恵子ほか編著

 たとえば、「誰も自分のことをわかってくれない」という自己を巡る漠とした悩みに対してでも、古典は威力を発揮する。

 インド学研究者の梶原氏は古代インド人の儀礼の複雑さにそのヒントを見いだす。名づけの儀礼から始まり、お食い初め、初散髪と、結婚まで多様な儀礼が繰り返されるのだ。これは、自己とは何かという問いに「人間は儀礼によって形作られる」と考えた古代人の結論で、現代人も人生のさまざまな節目をひとつずつクリアしていっては、と促す。

 また、古典中国研究者の渡邉義浩氏は「論語」から「人が自分を知らなくとも憤らないのが君子」「自分が人を知らないことを憂えよう」との言葉を引用する。各地を遊説し続けたが、最後まで理解してくれる君主が現れなかった孔子の至った境地なのだ。

 高校生が抱える13の問いに、11人の古典研究者がそれぞれの視座から回答する本書。古典は、老若男女問わず、悩める人々の支えになるだろう。

(岩波書店 990円)

「編集者の読書論」駒井稔著

「編集者の読書論」駒井稔著

 世の中には無数の「読書論」「読書術」の本があるが、この類いの本が激増したのは、実は20世紀の終わり頃。先行きの見えない経済的な不安によりどころを求めるように「年収が○倍になる読書術」などのタイトルの本が目に見えて増えたことに著者はある種の切なさと痛々しさを感じる。

 毛沢東は開館から閉館まで図書館にこもるほどの乱読家であった一方、ショーペンハウアーは読書は短めの時間に制限し、自分の頭で考えることを重視した。つまり、「読書論」や「読書術」は十人十色で、ましてや生活に直接役立つものではないのだ。しかし、魅力的な本に出合う方法は確実に存在する。関心のある書籍から関連する資料に手を伸ばしていく王道の方法から、「気になった本をX(旧ツイッター)で検索し、その本を紹介している人のおすすめ書籍を追う」という次世代の本との出合い方も紹介する。

 児童書から海外文学まで、魅力ある本へのアプローチを明かす。

(光文社 1034円)

「知の巨人が選んだ世界の名著200」佐藤優監修

「知の巨人が選んだ世界の名著200」佐藤優監修

 古典としてのラインアップは日々更新されていると著者は言う。

 春秋戦国時代の古典といえば「三国志」だが、本書ではマンガ「キングダム」を収録。紀元前3世紀の長い戦乱と、AIの台頭や働き方改革など新しい技術や概念が登場しグローバリゼーションが進んだ現代は通じるものがあり、厳しい競争社会でいかに立ち回り生きるべきかという普遍的知が描かれている。

 たとえば、敵の熱くなりやすい性格を分析し、罠をしかけて自滅に追い込むも深追いせず、逃げるが勝ちで自軍の被害を最小限に収めた軍略家の玄峰。「戦いにおいては突撃以上に退却が重要」であることは、第2次世界大戦時の日本軍の失敗からも明らかだ、と著者。また、豊富な戦の勝ちパターンはビジネスにも応用できるとも言う。

 手塚治虫「火の鳥」などのマンガから、ヘーゲルの「精神現象学」のような難解な哲学書まで200冊の「機微に触れる箇所」をピンポイントに解説するブックガイド。

(宝島社 1210円)

「名著の予知能力」秋満吉彦著

「名著の予知能力」秋満吉彦著

 先人が人間や社会の本質を掴み取ろうとあがき続けて誕生した名著は、人間の本質をあぶり出す。

 本書は、古今東西の名著をわかりやすく解説する教養番組「100分de名著」(NHK・Eテレ)の番組制作の舞台裏を、プロデューサーならではの視点で描く回顧録。

 会社の不祥事をきっかけに、組織に対して途方もない幻滅を感じていた著者を救ったのは、三島由紀夫「金閣寺」だった。作中の「世界を変えるのは認識か、行為か」という言葉を、「認識を変えて会社に新しい価値を見いだすか、会社を辞めるという行為をとるか」と置き換えて捉えたのだ。会社を辞めずに仕事のあり方と向き合った著者にとって、「金閣寺」は生涯のパートナーになった。

 ほかにも、M・ミッチェル著「風と共に去りぬ」にはトランプ政権につながるアメリカの裂け目を、ル・ボン著「群衆心理」にはSNS社会の分断を読み取るなど、番組9年間で取り上げた31の名著たちを読み解く。

(幻冬舎 1100円)

「人生の道しるべになる 座右の寓話」戸田智弘著

「人生の道しるべになる 座右の寓話」戸田智弘著

 愛犬を殺され、愛犬の墓場から生えてきた大木で作った臼も意地悪なじいさんに燃やされてしまう。失意の中、持ち帰った灰をまくと、枯れ木に満開の花が咲く……。昔話でおなじみの「花咲かじいさん」の物語は一見、荒唐無稽な物語に見えるが、実は深い意味が隠されているという。愛犬の喪失という悲劇と、枯れ木に花が咲くラストで締めくくられるこの物語に通底しているのは「死と再生のイメージ」。人間は年老いると頭が動かなくなり「動物のよう」と陰口を言われ、その次には体が動かなくなり「植物」のようとなじられ、最終的には「灰」になる。ここで、花咲かじいさんの肝となるのは灰が次の生命につながること。「死んでも何らかの形で命は続いていく」という死生観が人々を救うのだ。

 ほかにも「ウサギとカメ」には弱者の戦い方を、「山月記」には希望と勇気を読み解くなど、77の寓話から人生の道しるべになる教えを引き出す。

(ディスカヴァー・トゥエンティワン 1320円)

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