つぶやき好きにオススメ詩歌本特集

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「センチメンタルに効くクスリ」岡本雄矢著

「センチメンタルに効くクスリ」岡本雄矢著

 著者は日本でただ一人の歌人芸人。漫才がウケず、もうダメだと落ち込んだり、LINEの返信がなくて寂しく感じるなど、悲哀、哀愁、寂しさ、切なさを感じる出来事が身の回りによく起き、センチメンタルに殺されそうな日が続いた。そんな日々の出来事を短歌にすると、周りが笑ってくれた。

 センチメンタルは短歌になりやすく、誰かを幸せにできると気づいた著者が、「不幸短歌」と名付けた短歌を紹介し、その情景を語る短歌エッセー。

 まずは「恋と青春のトホホ」の章。「グッピーか金魚だったか忘れたが水槽に眼鏡ぶん投げられた」「すぐ既読つけたらキモいと思われる気がして一旦スマホを置いた」など、恋愛で傷ついたり落ち込んだり、恋愛未満の思い出を歌に託す。

 以降、「隠れファンなんですと言われ なぜ隠れてるんですかと言えず別れた」などの「芸人」編から日常や家族、そして人生のトホホを詠んだ歌が、読者の心によく効く。

(幻冬舎 1760円)

「王朝和歌、こんなに面白い」中原文夫著

「王朝和歌、こんなに面白い」中原文夫著

 その昔、日本では恋愛だけにとどまらず、社交や冠婚葬祭などあらゆる場面で和歌が詠まれてきた。和歌には人と人をつなぐ機能と効用があり、あらゆる美意識を表現する豊かな包容力があった。

 本書では、人々がそのように歌を詠んでいた平安時代の和歌を紹介しながら、古典和歌の魅力を教えてくれる文学読み物。

 療養中で長らく会えなかった恋人・藤原教通に「どうして見舞いに来てくれなかったんだ」と責められ、和泉式部の娘・小式部内侍は「死ぬばかり嘆きにこそは嘆きしか生きて問ふべき身にしあらねば」(後拾遺和歌集)〈私は死ぬほど辛い思いで嘆いていました。生きているうちにあなた様をお尋ねできる身の程ではありませんので……〉と、苦渋の思いを詠んだ。

 ほかにも、一条天皇の中宮・彰子に仕えていた紫式部と、彰子の父・藤原道長との和歌の詠み合いなどを紹介。さまざまな和歌を紹介しながら、和歌がもたらす不思議な力による王朝社会の悲喜劇を読み解く。

(作品社 1760円)

「やさしい俳句入門」辻桃子、安部元気著

「やさしい俳句入門」辻桃子、安部元気著

 俳句を始めたいと思いながら、一歩が踏み出せない人にオススメの入門書。

 なぜ、一歩を踏み出せないのか。とかく俳句は難しいものだと思われがちで、なにやら難しく作らないと教養を疑われると考えてしまうからではないか、と著者は指摘する。

 しかし、初心者がいきなり名句を作れないのは当たり前。初心者らしく控えめに始めてみることが大切だという。

 例えば、近代俳句の祖といわれる正岡子規に「一列二十本バカリユリノ花」という有名な句がある。庭か畑に1列にずらりと20本もゆりの花が咲いていた、というだけの句だが、こうした現実のちょっとした場面を見つけてつぶやいてみる。その最も短いつぶやきこそが俳句なのだという。

 俳句の基本ルールから、見違えるような句を作るコツ、そしてできた俳句をブラッシュアップする推敲まで。多くの句を例にしながら丁寧に解説。

 読んでいる途中から、早くつぶやきたくて仕方がなくなるはず。

(主婦の友社 1595円)

「一冊で読む日本の近代詩500」西原大輔編著

「一冊で読む日本の近代詩500」西原大輔編著

 近年、残念なことに新刊書店の棚に日本の近現代詩のアンソロジーが並ぶことがなくなった。詩に興味を抱いても、各詩人についての知識がなければどの詩編の評価が高いのかも見当がつかない。そんな不便を解消すべく企画された名詩大全。

 トップを飾るのは、「一里半なり一里半 並びて進む一里半 死地に乗り入る六百騎 将は掛かれの令下す」で始まる外山正一(1848~1900年)の「テニソン氏軽騎隊進撃ノ詩」。これは英国詩人によるクリミア戦争の詩を外山が訳したもの。

 続いてこの詩をヒントに外山が創作した「抜刀隊」という詩も紹介。この詩は後にフランス人によって作曲され、いまも自衛隊で軍歌として使われているという。

 そうした各作品の情報なども紹介しながら、森鴎外や土井晩翠から、萩原朔太郎、中原中也、立原道造まで、1945年以前に活動を始めていた詩人85人と1社(新声社)による読んでおきたい500作品を収録。

(笠間書院 2530円)

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