碓井広義
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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

「日本ボロ宿紀行」は深川麻衣の頑張りだけで一見の価値

公開日: 更新日:

 2016年に乃木坂46を卒業した、深川麻衣。女優としての地上波連続ドラマ初主演が「日本ボロ宿紀行」だ。ヒロインの篠宮春子(深川)は零細芸能事務所の歌手、桜庭龍二(高橋和也)のマネジャー。経営者だった父親(平田満)が急逝し、突然社長になってしまった。同時に所属タレントは皆退社して、残留したのは桜庭だけだ。2人は売れ残りのCDを抱えて、地方営業の旅に出る。

 とは言うものの、「忘れられた一発屋歌手」の復活物語ではない。2人が旅先で泊まり歩く、古くて、安くて、独特の雰囲気を持った「宿」こそが、もう一人(一軒?)の主人公だ。毎回、ドラマの冒頭で春子が言う。「歴史的価値のある古い宿から、驚くような安い宿までをひっくるめ、愛情を込めて“ボロ宿”と呼ぶのである」と。登場するのはいずれも実在の宿だ。

 新潟県燕市「公楽園」は元ラブホで、お泊まりが2880円。春子と桜庭の夕食は自販機ディナーだった。また、山小屋にしか見えない群馬県嬬恋村「湯の花旅館」も、玄関に置かれた熊の剥製や巨大なサルノコシカケが、ボロ宿ムードをあおっていた。

 主人公が実在の店で食事をする、同局「孤独のグルメ」の宿屋版といった構造だが、マニアック度やニッチ度が半端じゃない。何より、女優・深川麻衣が頑張っている。もう、それだけで一見の価値ありだ。

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